住宅は「建築基準法」や「住宅の品質確保の促進等に関する法律」などによって、地震時に液状化被害が生じないように法律で守られていると考えている方が多いかもしれません。しかし、残念ながら現状は十分な安全性が確保されているとは言いにくい状況といえます。以下にQ&A形式で液状化に関連した法律について解説いたします。
A1: 宅地造成等規制法や都市計画法では、盛土を締め固めるなどの対策が義務付けられています。しかし、地盤の液状化のリスクは残るといえます。
公有水面埋立法では、災害防止に十分な配慮をすることを求めていますが、地盤の液状化に対してどのような対策を施せばよいか具体的な基準は示されていません。
なお、地方公共団体によっては技術基準を設けていることがあります。
宅地造成等規制法(昭和36年法律第191号。略称「宅造法」)や都市計画法(昭和43年法律第100号。略称「都計法」)では、盛土をする場合、地盤に雨水や地下水などが浸透して、緩み、沈下、崩壊や滑りが生じないように、おおむね30cm以下の厚さの層に分けて土を盛り、ローラー等を用いて締め固め、必要に応じて地滑りを防ぐくい等の措置を講ずることが義務付けられています(宅地造成等規制法施行令(昭和37年政令第16号)第5条第1項第3号[参考1]、並びに都市計画法施行令(昭和44年政令第158号)第28条第1項第4号[参考2])。しかし、地盤の液状化のリスクは残るといえます。
公有水面埋立法(大正10年法律第57号。略称「埋立法」)では、都道府県知事が埋め立てを許可する条件として災害防止に十分な配慮をすることを挙げています(公有水面埋立法第4条第1項第2号[参考3])。しかし、地盤の液状化に対してどのような対策を施せばよいか具体的な基準は示されていません。
なお、地方公共団体によっては、宅地造成等規制法に基づく宅地造成工事の設計や施工について具体的な基準[参考4]を定めています。
第5条 法第9条第1項の政令で定める技術的基準のうち地盤について講ずる措置に関するものは、次のとおりとする。
一・二(略)
三 盛土をする場合においては、盛土をした後の地盤に雨水その他の地表水又は地下水(以下「地表水等」という。)の浸透による緩み、沈下、崩壊又は滑りが生じないように、おおむね30センチメートル以下の厚さの層に分けて土を盛り、かつ、その層の土を盛るごとに、これをローラーその他これに類する建設機械を用いて締め固めるとともに、必要に応じて地滑り抑止ぐい等の設置その他の措置を講ずること。
四(略)
第28条 法第33条第2項に規定する技術的細目のうち、同条第1項第7号(法第35条の2第4項において準用する場合を含む。)に関するものは、次に掲げるものとする。
一~三(略)
四 盛土をする場合には、盛土に雨水その他の地表水又は地下水の浸透による緩み、沈下、崩壊又は滑りが生じないように、おおむね30センチメートル以下の厚さの層に分けて土を盛り、かつ、その層の土を盛るごとに、これをローラーその他これに類する建設機械を用いて締め固めるとともに、必要に応じて地滑り抑止ぐい等の設置その他の措置が講ぜられていること。
五~七(略)
第4条 都道府県知事ハ埋立ノ免許ノ出願左ノ各号ニ適合スト認ムル場合ヲ除クノ外埋立ノ免許ヲ為スコトヲ得ズ
一(略)
二 其ノ埋立ガ環境保全及災害防止ニ付十分配慮セラレタルモノナルコト
三(以下、略)
横浜市の宅地造成技術基準~設計編~の地盤調査に関する項目では、次のように記述されています。
宅地造成に関する工事に当たっては、地盤調査を行うものとする。
宅地造成に関する工事の設計(造成計画)は、円滑に工事を進めるために、申請区域内及び申請区域周辺の現地における事前調査に基づき、施工方法等を考慮して行わなければなりません。
「地盤調査」としては、主として宅地造成が行われる土地の地層、土質、地下水位、地盤の支持力・水平反力・沈下量などを調べるために行うボーリング調査等の原位置調査が挙げられます。これに対し、「土質試験」は、主として設計計算等に用いる土質諸定数を求めるために現地で採取した乱さない試料を用いて行う三軸圧縮試験等の物理試験のことをいいます。
なお、地盤調査は、造成計画の検討断面などにより、勾配、土質等が最も不利な条件下にある部分について行ってください。
A2: 宅地造成事業を許可する機関は、国が通知した「宅地造成等規制法の施行にあたっての留意事項について」にしたがって宅地造成事業を行う事業主体に対し、法令、宅地防災マニュアルなどに基づき指導、指示、許可などを行っています。ただし、造成事業を実施している時点(許可した時点)での法令等の基準に適合しているかどうかの審査ですから、古い造成地であれば、必ずしも現在の基準に適合していない場合もあります。その意味では、残念ながら私たちが期待する「最新で十分なチェック」が行われているとまでは言えないというのが実情です。
なお、実際に購入しようとする際は、その土地が、昔はどのような土地で、いつの造成事業でどのような基準に該当して許可されたのかの説明を求め、さらに現在の基準とはどのように違うのかを確認しておくことも重要です。
国土交通省総合政策局民間宅地指導室長が、都道府県・政令指定都市・中核市・特例市宅地防災行政担当部長あてに平成13年5月24日付け国総民発第7号により通知した「宅地造成等規制法の施行にあたっての留意事項について」※の別紙二の第1「総括的事項」、第2「宅地造成に関する工事等の許可について」、第3「工事完了の検査について」において、次のように記述されており、宅地造成を行う事業主体に対し指導を行っているところです。宅地造成に当たっての耐震対策、軟弱地盤対策、地盤の液状化などについての指針が示されていますので確認しておきましょう。
なお、実際に造成地の説明を受ける際には、これらのことが的確に実施されているかについて確認し、記録しておくことも肝要であると言えます。
(※ http://www.mlit.go.jp/crd/web/jogen/ryuui.htm)
「宅地造成等規制法の施行にあたっての留意事項について」の別紙二から抜粋
(1)慎重かつ厳格な許可、監督及び検査
宅地造成工事規制区域内において行なわれる宅地造成に関する工事については、その許可、監督及び検査を慎重かつ厳正に行ない宅地造成に伴う災害の防止に遺憾なきを期すべきであること。
(以下、略)
(1)宅地造成工事規制区域内において行なわれる宅地造成に関する工事に係る許可に際しては、「宅地防災マニュアル(別添二)」及び「宅地開発に伴い設置される浸透施設等設置技術指針(別添三)」を参考とし、慎重かつ厳正に行ない災害の防止に遺憾なきを期すべきであること。また、工事中の災害の防止を図るため、できるだけ具体的な条件を附することが望ましいこと。
(2)宅地造成に関する工事の許可に係る事務の処理期間については、申請者の負担を軽減するために、一層の事務の迅速化が求められ、適切な標準処理期間を設けることが必要であり、原則として申請のあった日から二一日以内の期間を設定することが望ましく、また、今後も標準処理期間の設定及び短縮化に努め、一層の事務の迅速化を図ることが望ましいこと。
(以下、略)
宅地造成等規制法担当部局は、許可をした宅地造成工事が完了した場合には、遅滞なく工事完了検査を実施すべきであること。このため、造成主に対する工事完了検査申請の督励、工事中における報告の徴取、必要な中間検査の実施及び是正措置の確認に努めることが望ましいこと。また、宅地造成工事が全部完了しない場合でも、部分検査が可能であれば、これを積極的に行なうようにすることが望ましいこと。
火山灰(関東ローム、シラス等)台地、風化の進行が著しい台地又は地盤の軟弱な台地が過半を占める区域をいう。
(解説)火山灰や風化の進行しやすい土質・地質条件の場合、その特性から降雨等により土砂の崩壊や流出が発生しやすく、これらの地盤特性を有する丘陵地、台地等において宅地造成が行われた場合は、一般的にがけくずれ、土砂の流出による災害を受けるおそれが強い。また、宅地造成が行われる地盤が軟弱である場合は、盛土等を行った際に、地盤沈下やのり面崩壊等の宅地災害が発生するおそれが強い。
なお、宅地災害のおそれのある地域として、地震時に液状化する可能性のある地盤が挙げられるが、法が主としてがけくずれ又は土砂の流出による宅地災害を防止することを目的としているため、原則として、地震時に液状化する可能性のみが災害の発生しやすい地盤特性としてある場合は、この要領において、災害の発生しやすい地盤特性を有する地域には含めないこととする。
開発事業において造成される土地、地盤、土木構造物等(以下「宅地」という。)の耐震対策においては、宅地又は当該宅地を敷地とする建築物等の供用期間中に一~二度程度発生する確率を持つ一般的な地震(中地震)の地震動に際しては、宅地の機能に重大な支障が生じず、また、発生確率は低いが直下型又は海溝型巨大地震に起因するさらに高レベルの地震(以下「大地震」という。)の地震動に際しては、人命に重大な影響を与えないことを耐震対策の基本的な目標とする。
開発事業の実施に当たっては、開発事業における土地利用計画、周辺の土地利用状況、当該地方公共団体の定める地域防災計画等を勘案するとともに、原地盤、盛土材等に関する調査結果に基づき、耐震対策の必要性、必要な範囲、耐震対策の目標等を具体的に検討することが必要である。
また、耐震対策の検討は、開発事業の基本計画作成の段階から、調査、設計及び施工の各段階に応じて適切に行うことが大切である。
開発事業において耐震対策の必要な施設については、当該施設の要求性能等に応じて、適切な耐震設計を行わなければならない。
盛土のり面及び擁壁の安全性に関する検討においては、震度法により、地盤の液状化判定に関する検討においては、簡易法により設計を行うことを標準とし、必要に応じて動的解析法による耐震設計を行う。
軟弱地盤は、盛土及び構造物の荷重により大きな沈下を生じ、盛土端部がすべり、地盤が側方に移動する等の変形が著しく、開発事業において十分注意する必要がある地盤である。
なお、地震時に液状化が発生するおそれのある砂質地盤については一種の軟弱地盤と考えられ、必要に応じて別途検討するものとする。
軟弱地盤は、一般に、河川沿いの平野部、海岸沿いの平坦な土地、湖沼、谷等に分布する場合が多い。
また、軟弱地盤は、地下水位が高く冠水等の障害が起こりやすいので、土地利用状況からみると低平な水田又は荒地になっていることが多い。
軟弱地盤を構成する土層は、ここ数千年の間に堆積したものが多い。
また、軟弱地盤はその地形的分布、土質等から、泥炭質地盤、粘土質地盤及び砂質地盤に大別することができる。
しかし、同質の地盤であっても、その土質の性状等の特徴は、軟弱地盤の生成された環境によって大きく異なるのが一般的である。
軟弱地盤の分布が予想される箇所で開発事業を行う場合、あるいは開発事業に伴う事前の調査ボーリングの結果から地層に粘土等の存在が明らかになった場合には、標準貫入試験、スウェーデン式サウンディング試験、コーン貫入試験等の調査を行って、軟弱地盤であるかどうかを判定する。
その結果、軟弱地盤と判定された場合には、さらに沈下量、沈下時間、安定性等について検討を行い、適切な対策を講じるものとする。
軟弱地盤の判定は、標準貫入試験、スウェーデン式サウンディング試験、コーン貫入試験等の結果に基づき行うものとする。
これらの試験等による判定が困難な場合には、必要に応じて土質試験を行い判定するものとする。(以下、略)
開発事業に際しては、開発事業区域内及びその周辺部において、地震時の液状化現象により悪影響を生じることを防止・軽減するため、液状化に対する検討を行い、必要に応じて適切な対策を行うものとする。
開発事業に際しては、あらかじめ既存資料等により液状化地盤の分布状況を確認するものとする。
また、土地利用計画等を踏まえ、必要に応じて地盤調査、土質試験等を行い、開発事業区域内及びその周辺地域の液状化地盤の分布、液状化発生の可能性に関する判定等を行うものとする。
さらに、液状化が発生すると、周辺地形等の条件によっては地盤が側方流動することがあるため、地盤調査及び土質試験の他、周辺地形等の調査も必要になる。
液状化地盤の判定は、標準貫入試験、コーン貫入試験、サウンディング試験等の地盤調査結果、細粒分含有率試験結果、地下水位の測定結果等を用いて行うことを標準とする。
また、必要に応じて判定結果に基づく液状化地盤の分布を示した地図(液状化マップ)を作成する。
開発事業区域内又はその周辺地域に液状化地盤が存在する場合には、地震時における地盤の液状化に伴う被害及び悪影響の範囲並びに程度に関する十分な検討に基づき、土地利用計画、経済性、構造物等の重要性等を総合的に勘案して対策工の必要性及びその範囲並びに程度について検討し、適切な対策工を選定するものとする。
また、地盤の液状化による被害又は悪影響が著しい場合には、土地利用計画を再検討することも必要である。
なお、液状化対策は実施の時期として、開発事業の実施段階で行う場合とその後の建築物等の建設段階で行う場合があり、対策の方針として、液状化の発生そのものを抑制する方法と液状化の発生を前提に建築物等の基礎構造で対応する方法、さらに、それぞれを併用する方法があるため、最も適切な対応方法について十分な検討が必要である。
A3: 造成した当時の基準どおりに造っているのであれば、責任を問うことは困難です。
なお、現行基準では、液状化対策は建物の設計者側で考慮することになっています。
建築基準法第19条(敷地の衛生及び安全)第2項[参考1]では、「湿潤な土地、出水のおそれの多い土地又はごみその他これに類する物で埋め立てられた土地に建築物を建築する場合においては、盛土、地盤の改良その他衛生上又は安全上必要な措置を講じなければならない。」とされており、設計者(≒建築主)がその責を負うことになります。
また、平成13年7月2日国土交通省告示第1113号の第2で
『地盤の許容応力度を定める方法は、次の表の(1)項、(2)項又は(3)項に掲げる式によるものとする。ただし、地震時に液状化するおそれのある地盤の場合又は(3)項に掲げる式を用いる場合において、基礎の底部から下方2m以内の距離にある地盤にスウェーデン式サウンディングの荷重が1kN以下で自沈する層が存在する場合若しくは基礎の底部から下方2mを超え5m以内の距離にある地盤にスウェーデン式サウンディングの荷重が500N以下で自沈する層が存在する場合にあっては、建築物の自重による沈下その他の地盤の変形等を考慮して建築物又は建築物の部分に有害な損傷、変形及び沈下が生じないことを確かめなければならない。』とされ、それ以前の昭和46年1月29日建設省告示第111号からただし書が追記され改められました。
そのときの国土交通省パブリックコメント(意見公募)で『「地震時に液状化する恐れのある地盤」の定義は何か。また、そういった場所を設計者が判断するのか。』という意見に対し、国土交通省の考え方を次のようにコメントしています。
地震時に液状化するおそれのある地盤は、おおむね次のイからニまでに該当するような砂質地盤と考えられ、「2001年版建築物の構造関係技術基準解説書」においても考え方を記載しています。
当該敷地における液状化の可能性については、原則として、設計者が判断することになります。その際、当該敷地周辺の液状化マップ等が用意されていれば判断資料のひとつになります。
したがって、この基準を満たした検査が行われ、住宅の建築に当たって必要な措置が施されているのであれば、液状化被害が発生した場合であっても、それをもって責任を問うのは困難であるといえます。
なお、過去の地盤沈下に関する裁判例においては、福岡高裁の事例として「本件敷地はその一部地中に極軟弱地盤が存在していたものであるが、本件敷地のような海岸近くの丘陵地の開発地であれば、局所的に変化のある地盤が含まれることはどこでも見られることであるから、控訴人が地盤調査をしなかったのは上記義務違反があると認めるべきである。」と認定しているケースがあります。この判例に見られるように、「誰が」地盤調査をするべき者なのかが重要なポイントとなります。
A4: 建築基準法施行令(昭和25年政令第338号)第38条に「建築物の基礎は、建築物に作用する荷重及び外力を安全に地盤に伝え、かつ、地盤の沈下又は変形に対して構造耐力上安全なものとしなければならない。」と規定されています。しかし、特例として提出図書の省略が認められている木造2階建てなどの小規模建築物では、液状化の可能性の判断は設計者に委ねられており、具体的な規定はありません。
建築基準法はもともと、建物を利用する不特定多数の人や周辺住民の命を守ることを主目的として作られました。個人の資産である戸建住宅は自己責任に委ねられ、厳しい対策は求められてはいませんでした。建築基準法第6条第1項第4号[参考1]に該当する建築物は、通称、4号建築物(木造2階建てなどの小規模建築物はこれに含まれる)と呼ばれ、詳細な構造計算は義務付けられておらず、簡易な計算と部材の仕様のチェックのみ規定されています。
その後、地盤沈下などで問題が生じることがあったため、平成12年5月23日建設省告示第1347号で4号建築物に対しても基礎の仕様が決められました。さらに平成13年(2001年)に建築基準法施行令第93条[参考2]が改正され、液状化の検討※1が盛り込まれました。ただし、具体的な地盤調査の方法を定めた平成13年7月2日国土交通省告示第1113号は構造計算を行う建築物に対する規定であるため、「4号建築物」にはこの告示は適用されず、液状化の可能性の判断は設計者に委ねられていることになります。
なお、平成13年7月2日国土交通省告示第1113号の第2に規定される許容応力度を定める方法は、4号建築物にも適用されるとの解釈論もあります。法令は、すべてを想定して制定されているわけではなく、法律の実務的運用については、その立法趣旨と行政施策・指導、裁判(司法)の場では必ずしも一致しないことがあります。このため、トラブルとなったときは、最終的には裁判で判断を求めることが必要となる場合もあります。
建築基準法施行令第93条では原則として地盤調査を課していますが、安定した敷地上の地盤の許容応力度の表が示されています。この条文を解説している文献※2では、以下のように液状化のおそれのある地盤の目安を挙げています。
また、ただし書の規定に基づく表中で、地震時に液状化のおそれのある地盤については支持力を確保できなくなることから、こうした密実でない砂質地盤について、表の数値の適用を除外している。地震時に液状化のおそれのある地盤は、おおむね次のイからニまでに該当するような砂質地盤である。
詳細な判定については、日本建築学会「建築基礎構造設計指針」※3によることができる。なお、この地盤を建築物の支持地盤とすることは適当でないので、この地盤を支持地盤とする建築計画に対しては、締固め等有効な地盤改良を行うことが必要である。
平成13年7月2日国土交通省告示第1113号では、原則として地盤調査に基づき中地震での液状化の危険性を判定する方法が規定されました※4。しかし、最低限義務付けられたスウェーデン式サウンディング試験(SWS試験)には土質と地下水位が正確にわからないといった弱点があり、また義務付けられた地盤調査も深さ5m程度までとなっていることから危険性の予測精度にも限界があります。加えて、SWS試験結果から液状化の危険性を予測する手法は中地震(中規模の地震動)を想定したもので、大地震では被害が発生するリスクが残ります。したがって、より高い安全性を確保するためには、標準貫入試験などの地盤調査を敷地の複数地点で行い地盤の状況をより詳細に把握し、大地震に対しても安全性をしっかりと検討するといったことが必要です。
建築基準法で決められている最低水準の性能は、ごく稀に起こるような大地震では建物が損傷してもやむをえないが人命は何とか守ろうとするレベルです。もう少し述べますと、建物が地震の大きな力によるひずみを受け止め、部分的に壊れることはあるけれども、それによって倒壊するなどの致命的なダメージを防ぎ、そこに生活する人の命を守るという性能です。建物を少しでも壊れないようにするにはさらに高い性能を確保する必要がありますが、当然コストは増大します。そして、どんなに対策を行っても、被災するリスクをゼロにすることはできません。そのようなリスクについては地震保険など、経済的な方法でカバーする合理的な考え方もあります。
第6条 建築主は、第一号から第三号までに掲げる建築物を建築しようとする場合(増築しようとする場合においては、建築物が増築後において第一号から第三号までに掲げる規模のものとなる場合を含む。)、これらの建築物の大規模の修繕若しくは大規模の模様替をしようとする場合又は第四号に掲げる建築物を建築しようとする場合においては、当該工事に着手する前に、その計画が建築基準関係規定(この法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定(以下「建築基準法令の規定」という。)その他建築物の敷地、構造又は建築設備に関する法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定で政令で定めるものをいう。以下同じ。)に適合するものであることについて、確認の申請書を提出して建築主事の確認を受け、確認済証の交付を受けなければならない。当該確認を受けた建築物の計画の変更(国土交通省令で定める軽微な変更を除く。)をして、第一号から第三号までに掲げる建築物を建築しようとする場合(増築しようとする場合においては、建築物が増築後において第一号から第三号までに掲げる規模のものとなる場合を含む。)、これらの建築物の大規模の修繕若しくは大規模の模様替をしようとする場合又は第四号に掲げる建築物を建築しようとする場合も、同様とする。
一 別表第一(い)欄に掲げる用途に供する特殊建築物で、その用途に供する部分の床面積の合計が百平方メートルを超えるもの
二 木造の建築物で三以上の階数を有し、又は延べ面積が五百平方メートル、高さが十三メートル若しくは軒の高さが九メートルを超えるもの
三 木造以外の建築物で二以上の階数を有し、又は延べ面積が二百平方メートルを超えるもの
四 前三号に掲げる建築物を除くほか、都市計画区域若しくは準都市計画区域(いずれも都道府県知事が都道府県都市計画審議会の意見を聴いて指定する区域を除く。)若しくは景観法(平成16年法律第110号)第74条第1項の準景観地区(市町村長が指定する区域を除く。)内又は都道府県知事が関係市町村の意見を聴いてその区域の全部若しくは一部について指定する区域内における建築物
2~15(略)
第九十三条 地盤の許容応力度及び基礎ぐいの許容支持力は、国土交通大臣が定める方法によつて、地盤調査を行い、その結果に基づいて定めなければならない。ただし、次の表に掲げる地盤の許容応力度については、地盤の種類に応じて、それぞれ次の表の数値によることができる。
地岩盤盤 | 長期に生ずる力に対する許容応力度(単位 一平方メートルにつきキロニュートン) | 短期に生ずる力に対する許容応力度(単位 一平方メートルにつきキロニュートン) |
---|---|---|
岩盤 | 1,000 | 長期に生ずる力に対する許容応力度のそれぞれの数値の2倍とする。 |
固結した砂 | 500 | |
土丹盤 | 300 | |
密実な礫層 | 300 | |
密実な砂質地盤 | 200 | |
砂質地盤(地震時に液状化のおそれのないものに限る。) | 50 | |
堅い粘土質地盤 | 100 | |
粘土質地盤 | 20 | |
堅いローム層 | 100 | |
ローム層 | 50 |
A5: 液状化対策が個々の住宅で完結しない場合があり、チェックは十分にはできません。
戸建住宅には液状化に対する具体的な規定がないことはA4で述べたとおりです。したがって、地方自治体の建築主事や指定確認検査機関による建築確認ではチェックが十分であるとは言い切れません。
また、建築士が4号建築物(木造2階建てなどの小規模建築物。A4の解説参照)を設計した場合は、建築士の責任において法に適合した設計を行うことになっており、建築確認においては液状化の検討をはじめとする構造関係の図書の提出が省略されますのでチェックは行われません。
したがって、十分に液状化対策が施された設計となっているかについて第三者の目でチェックをするためには、別途、(当該設計に関わっていない第三者の)建築士などの専門家に依頼することなどが必要となる場合もあります。
一方、戸建住宅では十分な液状化対策が施せないことがあります。例えば、戸建住宅の敷地は狭いことが多く、地盤改良を行おうとしても、ごく限られた部分(面積)しかできないことがあります。また、戸建住宅を建てる際には予算的な制約もあり、詳細な地盤調査や強固な杭で支持する方法(設計・施工)を諦めてしまうこともあるかもしれません。現行法令では、このような場合でも「建物を建てる(建ててしまう)こと」ができますが、残念ながらリスクが残ることを承知しておくべきでしょう。
土地を購入する際には、地盤を造成した業者に対して「地盤の情報の開示を求めること」は、購入の判断や購入後に建物を設計する際に役立ちます。また、液状化マップを作成している自治体もありますので事前に確認しておきましょう。東京都、千葉県、横浜市など多くの自治体では液状化危険度マップをインターネットで公開しています。
なお、東日本大震災では、液状化危険度マップで危険度が高くないとされた地域でも液状化被害が発生しました。これは、マップのメッシュが粗いことなどに起因しています。液状化危険度マップの示す危険度には誤差があることを踏まえリスクを判断する必要があります。
A6: 設計に重大な過失があれば責任を問うことができます。重大な過失があったかどうかは裁判で争われます。
ここでいう重大な過失とは、地盤が液状化することを知っていながら対策を行わなかった場合や、対策はしたけれども、そもそもの調査や設計がずさんであった場合などが挙げあられます。例えば、中地震(中規模の地震動)で液状化被害が発生することが予測できたり(予見可能性と呼ばれます)、対策をとることができた(結果回避可能性と呼ばれます)にもかかわらず何も行わなかったりした場合、責任を問うことができます。
しかし、中地震(中規模の地震動)の定義はあいまいであり、もともとの土地の性質・形状、地盤調査や造成工事の妥当性、さらには地盤対策工事、住宅建築の基礎工事の的確性などが裁判における過失責任の有無の争点となるでしょう。
なお、液状化被害そのものを争点としている裁判例はそれほど多くありませんが、盛土などを原因とした「いわゆる地盤沈下」ではいくつかの裁判例がありますので参考[参考1など]になります。裁判例の中には、一審と二審で判断が逆転しているケースなども散見され、それぞれの事例を深く調べておくことが肝要です。
その中のいくつかを見てみますと、「造成業者がきちんと(地盤の)対策工事をしたはずだ」、「建築士がきちんと(地盤について)調査し、設計したはずだ」、「住宅建設業者がきちんと(住宅が傾かないなどの)対策工事をしたはずだ」、「宅建業者がきちんと(地盤の状況等について)説明したはずだ」などが争点となっています。
また、東日本大震災での液状化被害に関わる裁判の一審について[参考2]に記載いたします。
東日本大震災での液状化被害に関わる裁判について、次のような一審の判決がありました。
A7: 過去にその土地で液状化被害があった場合や、その土地について沈下の可能性があるなど宅建業者が知り得た情報は説明しなければなりませんが、それ以外では説明の義務はありません。
宅地建物取引業法(昭和27年法律第176号。略称「宅建業法」)では、地震などによって地盤の滑動などの災害が発生するおそれが大きいとして指定される「造成宅地防災区域」や、がけ崩れ、土石流、地滑りが発生するおそれのある「土砂災害警戒区域」に指定されているかどうかは重要事項説明に記載するよう定めています。しかし、液状化危険度については法律で例示列挙[参考1]された重要事項説明の対象には該当していません。一方、事故歴や災害歴は重要事項説明書に記載しなければならない項目となっているため、液状化被害が起こった土地は、説明義務が生じることになります。
なお、地盤沈下に関する過去の裁判例において、名古屋高裁のケースでは、「控訴人らが本件売買契約時に本件パンフレットの本件記載に十分留意しなかった面はあるものの、その記載自体、本件土地に地盤改良工事を要するような瑕疵があることを明示するものではなく、売主の被控訴人すら、地盤改良工事を要するかもしれない程度のあいまいな認識しか有していなかったことを踏まえると、控訴人らが、本件土地に地盤改良を要するような瑕疵があることを知らなかったことに過失があるということはできず、上記の瑕疵は隠れたものであったと認められる。」と認定しているケースがあります。
第35条 宅地建物取引業者は、宅地若しくは建物の売買交換若しくは貸借の相手方若しくは代理を依頼した者又は宅地建物取引業者が行う媒介に係る売買、交換若しくは貸借の各当事者(以下「宅地建物取引業者の相手方等」という。)に対して、その者が取得し、又は借りようとしている宅地又は建物に関し、その売買、交換又は貸借の契約が成立するまでの間に、取引主任者をして、少なくとも次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面(第5号において図面を必要とするときは、図面)を交付して説明をさせなければならない。
一 当該宅地又は建物の上に存する登記された権利の種類及び内容並びに登記名義人又は登記簿の表題部に記録された所有者の氏名(法人にあつては、その名称)
二 都市計画法、建築基準法その他の法令に基づく制限で契約内容の別(当該契約の目的物が宅地であるか又は建物であるかの別及び当該契約が売買若しくは交換の契約であるか又は貸借の契約であるかの別をいう。以下この条において同じ。)に応じて政令で定めるものに関する事項の概要
三 当該契約が建物の貸借の契約以外のものであるときは、私道に関する負担に関する事項
四 飲用水、電気及びガスの供給並びに排水のための施設の整備の状況(これらの施設か整備されていない場合においては、その整備の見通し及びその整備についての特別の負担に関する事項)
五 当該宅地又は建物が宅地の造成又は建築に関する工事の完了前のものであるときは、その完了時における形状、構造その他国土交通省令・内閣府令で定める事項
六 当該建物が建物の区分所有等に関する法律(昭和37年法律第69号)第2条第1項に規定する区分所有権の目的であるものであるときは、当該建物を所有するための一棟の建物の敷地に関する権利の種類及び内容、同条第4項に規定する共用部分に関する規約の定めその他の一棟の建物又はその敷地(一団地内に数棟の建物があつて、その団地内の土地又はこれに関する権利がそれらの建物の所有者の共有に属する場合には、その土地を含む。)に関する権利及びこれらの管理又は使用に関する事項で契約内容の別に応じて国土交通省令・内閣府令で定めるもの
七 代金、交換差金及び借賃以外に授受される金銭の額及び当該金銭の授受の目的
八 契約の解除に関する事項
九 損害賠償額の予定又は違約金に関する事項
十 第41条第1項に規定する手付金等を受領しようとする場合における同条又は第41条の2の規定による措置の概要
十一 支払金又は預り金(宅地建物取引業者の相手方等からその取引の対象となる宅地又は建物に関し受領する代金、交換差金、借賃その他の金銭(第41条第1項又は第41条の2第1項の規定により保全の措置が講ぜられている手付金等を除く。)であつて国土交通省令・内閣府令で定めるものをいう。以下同じ。)を受領しようとする場合において、第64条の3第2項の規定による保証の措置その他国土交通省令・内閣府令で定める保全措置を講ずるかどうか、及びその措置を講ずる場合におけるその措置の概要
十二 代金又は交換差金に関する金銭の貸借のあつせんの内容及び当該あつせんに係る金銭の貸借が成立しないときの措置
十三 当該宅地又は建物の瑕疵を担保すべき責任の履行に関し保証保険契約の締結その他の措置で国土交通省令・内閣府令で定めるものを講ずるかどうか、及びその措置を講ずる場合におけるその措置の概要
十四 その他宅地建物取引業者の相手方等の利益の保護の必要性及び契約内容の別を勘案して、次のイ又はロに掲げる場合の区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める命令で定める事項
イ 事業を営む場合以外の場合において宅地又は建物を買い、又は借りようとする個人である宅地建物取引業者の相手方等の利益の保護に資する事項を定める場合 国土交通省令・内閣府令
ロ イに規定する事項以外の事項を定める場合 国土交通省令
A8: 宅地については、A7で述べた説明義務に反していなければ、損害賠償請求は難しいでしょう。
ただし、売り手や仲介業者が「液状化対策」が必要なことを知っていたにもかかわらず、その事実を伝えなかったり、購入しようとする者が敷地について地盤沈下や液状化対策について質問したにもかかわらず告知しなかったり、虚偽の説明を行った場合などは損害賠償請求を行うことも可能です。この場合、重要なことは業者とのやりとりの記録を残しておくことです。
なお、分譲住宅については、A9で説明するように、10年瑕疵担保義務に関係する場合もあります。
宅地建物取引業法の重要事項の説明の中には、いわゆる(まだ発生していない)液状化についての説明義務を例示列挙はしていません。この重要事項の説明については、同法第35条に規定されており、第1項本文の中に「少なくとも次に掲げる事項について」としています。つまり、宅地建物取引業者は例示されている内容を説明すればいいというのではなく「少なくとも」ですから、これ以外の重要な事項は、当然に説明しなければなりません。そこでポイントとなるのが、宅地建物取引業法の第47条に定める「業務に関する禁止事項」[参考1]です。
この第47条第1号のニの中で「宅地若しくは建物の所在、規模、形質、現在若しくは将来の利用の制限、環境、交通等の利便、代金、借賃等の対価の額若しくは支払方法その他の取引条件又は当該宅地建物取引業者若しくは取引の関係者の資力若しくは信用に関する事項であつて、宅地建物取引業者の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるもの」については「故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為」を禁止しています。つまり、住宅を建設するために液状化対策工事が必要であることを知っていたにもかかわらず、その説明を故意にしなかったり、「対策は特に必要ない」、「(特段の対策をしていないのに)対策を施している」などの不実のことを告げる行為は業法違反となります。
第47条 宅地建物取引業者は、その業務に関して、宅地建物取引業者の相手方等に対し、次に掲げる行為をしてはならない。
一 宅地若しくは建物の売買、交換若しくは賃借の契約の締結について勧誘をするに際し、又はその契約の申込みの撤回若しくは解除若しくは宅地建物取引業に関する取引により生じた債権の行使を妨げるため、次のいずれかに該当する事項について、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為
イ 第35条第1項各号又は第2項各号に掲げる事項
ロ 第35条の2各号に掲げる事項
ハ 第37条第1項各号又は第2項各号(第1号を除く。)に掲げる事項
ニ イからハまでに掲げるもののほか、宅地若しくは建物の所在、規模、形質、現在若しくは将来の利用の制限、環境、交通等の利便、代金、借賃等の対価の額若しくは支払方法その他の取引条件又は当該宅地建物取引業者若しくは取引の関係者の資力若しくは信用に関する事項であつて、宅地建物取引業者の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるもの
二 不当に高額の報酬を要求する行為
三 手付けについて貸付けその他信用の供与をすることにより契約の締結を誘引する行為
A9: 住宅の品質確保の促進等に関する法律(平成11年法律第81号。略称「品確法」)では、いわゆる液状化対策についての義務は課していません。
なお、同法は「地盤の沈下」そのものについても対象とはしていませんが、震災や液状化などをきっかっけに住宅そのものに欠陥があったことが原因である被害は同法による瑕疵担保責任の対象となります。
また、東日本大震災を踏まえ、平成27年4月1日より評価書に液状化に関する参考情報を記載することになりました。この情報は、性能を保証するものではありませんが、専門家への相談や購入時の判断材料として活用が期待されています。
住宅の品質確保の促進等に関する法律(平成11年法律第81号。略称「品確法」)は、その前提として「建物の品質確保」を定めていますが、「土地や地盤の品質」はこの法律の対象範囲とはなっていません[参考1]。
なお、2000年の品確法施行後に建てられた新築住宅については、基本構造部分(住宅の構造耐力上主要な部分又は雨水の浸入を防止する部分)の瑕疵担保責任を引き渡しの日から10年間と義務付けています。[参考2~4]
この場合、「地震による損害は免責」の原則がありますが、基礎梁に鉄筋が入っていないなどの基本構造部分の欠陥で基礎が損傷すれば瑕疵担保責任の対象となります。
しかし、建物の基本構造部分が無傷のまま沈下・傾斜した場合は対象外となりますので、建物のどの部分がどういう原因で損傷しているのかなどの診断が重要となります。
第1条 この法律は、住宅の性能に関する表示基準及びこれに基づく評価の制度を設け、住宅に係る紛争の処理体制を整備するとともに、新築住宅の請負契約又は売買契約における瑕疵担保責任について特別の定めをすることにより、住宅の品質確保の促進、住宅購入者等の利益の保護及び住宅に係る紛争の迅速かつ適正な解決を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
第94条 住宅を新築する建設工事の請負契約(以下「住宅新築請負契約」という。)においては、請負人は、注文者に引き渡した時から十年間、住宅のうち構造耐力上主要な部分又は雨水の浸入を防止する部分として政令で定めるもの(次条において「住宅の構造耐力上主要な部分等」という。)の瑕疵(構造耐力又は雨水の浸入に影響のないものを除く。次条において同じ。)について、民法(明治29年法律第89号)第634条第1項及び第2項前段に規定する担保の責任を負う。
2 前項の規定に反する特約で注文者に不利なものは、無効とする。
3 第1項の場合における民法第638条第2項 の規定の適用については、同項中「前項」とあるのは、「住宅の品質確保の促進等に関する法律第94条第1項」とする。
第95条 新築住宅の売買契約においては、売主は、買主に引き渡した時(当該新築住宅が住宅新築請負契約に基づき請負人から当該売主に引き渡されたものである場合にあっては、その引渡しの時)から十年間、住宅の構造耐力上主要な部分等の隠れた瑕疵について、民法第570条において準用する同法第566条第1項並びに同法第634条第1項及び第2項前段に規定する担保の責任を負う。この場合において、同条第1項及び第2項前段中「注文者」とあるのは「買主」と、同条第1項中「請負人」とあるのは「売主」とする。
2 前項の規定に反する特約で買主に不利なものは、無効とする。
3 第1項の場合における民法第566条第3項の規定の適用については、同項中「前2項」とあるのは「住宅の品質確保の促進等に関する法律第95条第1項」と、「又は」とあるのは「、瑕疵修補又は」とする。
第97条 住宅新築請負契約又は新築住宅の売買契約においては、請負人が第94条第1項に規定する瑕疵その他の住宅の瑕疵について同項に規定する担保の責任を負うべき期間又は売主が第95条第1項に規定する瑕疵その他の住宅の隠れた瑕疵について同項に規定する担保の責任を負うべき期間は、注文者又は買主に引き渡した時から20年以内とすることができる。
A10:一般的な民間の住まい・家財向けの地震保険では、被害の程度(損害区分)を、保険始期が2016年12月31日以前までの契約では「全損」、「半損」、「一部損」の3つ、保険始期が2017年1月1日以降の契約では「全損」、「大半損」、「小半損」、「一部損」の4つに区分しており、住宅の主要構造部(基礎、柱、はり、壁、屋根等)の損傷度(損害額)によってどのランクの損害か分類されます。東日本大震災では液状化特有の建物の傾斜や沈下といった損害に着目した損害認定方法が基準に追加されました。建物に損害が発生した場合、保険を引き受けた保険会社等の調査員が判定した損害程度に応じ、次の保険金が支払われます。
被害区分 | 保険金支払額 | 限度額 |
---|---|---|
全損 | 地震保険金額の100% | 時価 |
大半損 | 地震保険金額の60% | 時価の60% |
小半損 | 地震保険金額の30% | 時価の30% |
一部損 | 地震保険金額の5% | 時価の5% |
被害区分 | 保険金支払額 | 限度額 |
---|---|---|
全損 | 地震保険金額の100% | 時価 |
半損 | 地震保険金額の50% | 時価の50% |
一部損 | 地震保険金額の5% | 時価の5% |
地震等の自然災害において、住宅がどの程度の損傷を受けたかは内閣府が定めた「災害に係る住家の被害認定基準運用指針」などに基づき地方公共団体が被害状況調査を行うこととしています。この運用指針は、次のような地震、水害及び風害による住家被害を想定して作成されたものです。
地震 |
|
---|---|
水害 |
|
風害 |
|
このような災害により、住宅の損害の程度を判定し、「全壊」、「大規模半壊」、「半壊」、「半壊に至らない」に分類して判定します。
全壊 | 住家がその居住のための基本的機能を喪失したもの、すなわち、住家全部が倒壊、流失、埋没、焼失したもの、または住家の損壊が甚だしく、補修により元通りに再使用することが困難なもので、具体的には、住家の損壊、消失若しくは流失した部分の床面積がその住家の延床面積の70%以上に達した程度のもの、または住家の主要な構成要素の経済的被害を住家全体に占める損害割合で表し、その住家の損害割合が50%以上に達した程度のものとする。 |
---|---|
大規模半壊 | 居住する住宅が半壊し、構造耐力上主要な部分の補修を含む大規模な補修を行わなければ当該住宅に居住することが困難なもの。具体的には、損壊部分がその住家の延床面積の50%以上70%未満のもの、または住家の主要な構成要素の経済的被害を住家全体に占める損害割合で表し、その住家の損害割合が40%以上50%未満のものとする。 |
半壊 | 住家がその居住のための基本的機能の一部を喪失したもの、すなわち、住家の損壊が甚だしいが、補修すれば元通りに再使用できる程度のもので、具体的には、損壊部分がその住家の延床面積の20%以上70%未満のもの、または住家の主要な構成要素の経済的被害を住家全体に占める損害割合で表し、その住家の損害割合が20%以上50%未満のものとする。 |
これらの判定及び当該被災住宅の再建方法により、被災者生活再建支援法(平成10年法律第66号)に定める被災者生活再建支援金などが交付されます。
なお、東日本大震災では液状化被害等の実態を踏まえ、災害による住家被害認定が一部見直しされました。基礎と柱が一体的に傾いたときの判定と基礎等が地盤面下へ潜り込んだときの判定が以下のように追加されています。
四隅の柱の傾斜の平均 | 判定 | 運用 | 備考 |
---|---|---|---|
1/20以上 | 全壊 | 従来通り | |
1/60以上、1/20未満 | 大規模半壊 | 新規 | 1/60:従来から基準値として使われている構造上の支障が生じる値 |
1/100以上、1/60未満 | 半壊 | 新規 | 1/100:医療関係者等にヒアリングを行い設定した居住者が苦痛を感じるとされている値 |
地盤面下に潜り込んでいる量 | 判定 | 運用 | 備考 |
---|---|---|---|
床上1mまで | 全壊 | 新規 | 雨が降ると恒常的に床上1mまで浸水することから設定 |
床まで | 大規模半壊 | 新規 | 雨が降ると恒常的に床上浸水することから設定 |
基礎の天端下(てんばした)25cmまで | 半壊 | 新規 | 雨が降ると恒常的に床下浸水することから設定 |
内閣府:防災情報のページ 災害に係る住家の被害認定 (2014年12月6日閲覧)
一方、地震保険ではその損壊の基準を次のように定めています(2017年1月から地震保険の保険料率が改定され、あわせて損害区分の細分化などが行われました1))。判定を行うのは保険会社等の調査員です。上記基準と似ていますが、同じ住宅であっても、上記の地方公共団体が行う判定(罹災証明)と異なる結果が出ることもあります。
全損 | 地震等により損害を受け、主要構造部(基礎、柱、はり、壁、屋根等)の損害額が、時価の50%以上である損害、または焼失もしくは流失した部分の床面積が、その建物の延床面積の70%以上である損害 |
---|---|
大半損 | 地震等により損害を受け、主要構造部(基礎、柱、はり、壁、屋根等)の損害額が、時価の40%以上50%未満である損害、または焼失もしくは流失した部分の床面積が、その建物の延床面積の50%以上70%未満である損害 |
小半損 | 地震等により損害を受け、主要構造部(基礎、柱、はり、壁、屋根等)の損害額が、時価の20%以上40%未満である損害、または焼失もしくは流失した部分の床面積が、その建物の延床面積の20%以上50%未満である損害 |
一部損 | 地震等により損害を受け、主要構造部(基礎、柱、はり、壁、屋根等)の損害額が、時価の3%以上20%未満である損害、または建物が床上浸水もしくは地盤面より45cmをこえる浸水を受け損害が生じた場合で、全損・大半損・小半損に至らない場合 |
全損 | 地震等により損害を受け、主要構造部(基礎、柱、はり、壁、屋根等)の損害額が、時価の50%以上である損害、または焼失もしくは流失した部分の床面積が、その建物の延床面積の70%以上である損害 |
---|---|
半損 | 地震等により損害を受け、主要構造部(基礎、柱、はり、壁、屋根等)の損害額が、時価の20%以上50%未満である損害、または焼失もしくは流失した部分の床面積が、その建物の延床面積の20%以上70%未満である損害 |
一部損 | 地震等により損害を受け、主要構造部(基礎、柱、はり、壁、屋根等)の損害額が、時価の3%以上20%未満である損害、または建物が床上浸水もしくは地盤面より45cmをこえる浸水を受け損害が生じた場合で、全損・半損に至らないとき |
東日本大震災では地震保険の損害調査でも液状化による損害に対する損害調査方法が、木造建物(在来軸組工法、枠組壁工法)と鉄骨造建物(共同住宅を除く)に対して、以下の表4(b)のように追加され2)、2017年1月からは損害区分の細分化に対応し表4(a)のように定められています3)。
認定区分 | 被害の状況 | 支払保険金 | |
---|---|---|---|
傾斜 | 沈下 | ||
全損 | 1.7/100(約1°)を超える場合 | 30cmを超える場合 | 建物の地震保険金額の全額 (ただし、時価が限度) |
大半損 | 1.4/100(約0.8°)を超え、1.7/100(約1°)以下の場合 | 20cmを超え、30cm以下の場合 | 建物の地震保険金額の60% (ただし、時価の60%が限度) |
小半損 | 0.9/100(約0.5°)を超え、1.4/100(約0.8°)以下の場合 | 15cmを超え、20cm以下の場合 | 建物の地震保険金額の30% (ただし、時価の30%が限度) |
一部損 | 0.4/100(約0.2°)を超え、0.9/100(約0.5°)以下の場合 | 10cmを超え、15cm以下の場合 | 建物の地震保険金額の5% (ただし、時価の5%が限度) |
認定区分 | 被害の状況 | 支払保険金 | |
---|---|---|---|
傾斜 | 沈下 | ||
全損 | 1.7/100(約1°)を超える場合 | 30cmを超える場合 | 建物の地震保険金額の全額 (ただし、時価が限度) |
半損 | 0.9/100(約0.5°)を超え、1.7/100(約1°)以下の場合 | 15cmを超え、30cm以下の場合 | 建物の地震保険金額の50% (ただし、時価の50%が限度) |
一部損 | 0.4/100(約0.2°)を超え、0.9/100(約0.5°)以下の場合 | 10cmを超え、15cm以下の場合 | 建物の地震保険金額の5% (ただし、時価の5%が限度) |
1) 一般社団法人日本損害保険協会:地震保険 2017年1月制度改定
(2017年7月17日閲覧)
2) 社団法人日本損害保険協会:地震保険における地盤の液状化による建物損害の調査方法について
(2011年7月3日閲覧)
3) 日本地震再保険株式会社:地震保険Q&A 保険金のお支払いについて Q29. 全損、大半損、半損、小半損、一部損とは、どのような損害の程度をいうの?
(2017年7月17日閲覧)
また、保険会社等に再調査を依頼してランクが変わった(一部損→半損など)ケースもあります。地震保険をかけている場合は、損害保険会社等に問い合わせ、相談することが肝要です。余震により被害が増大したときも再調査を受けることが可能です。ここで、本震から72時間以内に発生した地震は一括して1回の地震として扱われます。72時間経過した後の地震は別地震として扱われ、個別の損害とみなされます。例えば、1回目の地震で一部損、72時間経過後の余震で半損と認定された場合、1回目の地震で保険金を受け取っていなければ半損の保険金の支払い、1回目の地震で一部損の保険金を受け取っていれば、一部損と半損の差額の保険金の支払いを受けることができます。[参考3]
なお、地震保険の契約は全損の認定を受けると消滅します(全損終了と呼ばれます)。つまり、一度の契約では全損1回分以上の保険金を受け取ることはできません。ただし、契約が全損終了しても修復や建て替えを行った後で再加入することができます。
地震保険は保険会社等が経営破綻することを防ぐため、「地震保険に関する法律(昭和41年法律第73号)」に基づき政府が再保険の形でバックアップを行っています[参考1~3]。そのため、保険金の支払い額は生活再建を助ける程度で、十分ではない場合があります。地震保険以外にも地震被害を補償する保険や共済が保険会社や共済団体から提供されていますので、不安が残る場合は選択肢の一つとして考えることができます。ただし、政府によるバックアップはありませんので、大災害で保険会社等が経営破綻したときのリスクが残ります。保険会社等の再保険の状況などを確認しリスクが許容できるかどうか判断することが必要です。
第1条 この法律は、保険会社等が負う地震保険責任を政府が再保険することにより、地震保険の普及を図り、もつて地震等による被災者の生活の安定に寄与することを目的とする。
第2条 この法律において「保険会社等」とは、保険業法(平成7年法律第105号)第3条第5項の損害保険業免許若しくは同法第185条第5項の外国損害保険業免許を受けた者若しくは同法第219条第5項の免許を受けた者の社員(第9条の二において「保険会社」という。)又は他の法律に基づき火災に係る共済事業を行う法人で財務大臣の指定するものをいう。
2 この法律において「地震保険契約」とは、次に掲げる要件を備える損害保険契約(火災に係る共済契約を含む。以下同じ。)をいう。
一 居住の用に供する建物又は生活用動産のみを保険の目的とすること。
二 地震若しくは噴火又はこれらによる津波(以下「地震等」という。)を直接又は間接の原因とする火災、損壊、埋没又は流失による損害(政令で定めるものに限る。)を政令で定める金額によりてん補すること。
三 特定の損害保険契約に附帯して締結されること。
四 附帯される損害保険契約の保険金額の百分の三十以上百分の五十以下の額に相当する金額(その金額が政令で定める金額を超えるときは、当該政令で定める金額)を保険金額とすること。
3 この法律において「保険」、「保険金」又は「保険責任」とあるのは、共済契約については、それぞれ「共済」、「共済金」又は「共済責任」と読み替えるものとする。
第3条 政府は、地震保険契約によつて保険会社等が負う保険責任を再保険する保険会社等を相手方として、再保険契約を締結することができる。
2 前項の再保険契約は、契約の相手方ごとに、一回の地震等によりその相手方に係るすべての地震保険契約によつて支払われるべき保険金の合計額が政令で定める金額をこえる場合に、そのこえる金額につき政令で定める区分ごとの割合により支払うべきことを約するものとする。
3 一回の地震等により政府が支払うべき再保険金の総額は、毎年度、国会の議決を経た金額をこえない範囲内のものでなければならない。
4 七十二時間以内に生じた二以上の地震等は、一括して一回の地震等とみなす。ただし、被災地域が全く重複しない場合は、この限りでない。