2.液状化危険度の調べ方

この章では液状化危険度を調べる方法として、液状化危険度マップによる方法と自分で調べる方法について述べます。

1.液状化危険度マップとは

液状化危険度マップは、液状化マップ、液状化ハザードマップ、液状化防災マップなどの名称で公表されており、地震によりその土地が揺れた場合の液状化の危険(影響)の度合いを地図上に色づけして塗り分けたものです。その地域の50mから1km四方の土地を一つのメッシュとして危険度を評価したものが多く、地域の液状化の危険性がどの程度あるかを知ることができます。
 地震の揺れの強さの仮定の仕方として、「震度5強」のように、対象地域全域に対して一定とみなしているものと、震源と地震の規模(マグニチュード)を想定した地震(例えば、内閣府の中央防災会議が想定している首都直下の地震など)が起きた場合、その場所がどれだけ揺れるかを計算して、その揺れによる液状化現象の発生危険度を表したものの二通りがあります。最近作成される液状化危険度マップは、後者のタイプが多くなっています。どちらのタイプであっても液状化危険度マップは、想定されている地震の揺れの強さによって変わるものであることを認識しておくことが大切です。
 液状化危険度マップは、都道府県や市区町村単位で作成され公表されているものが多く、以前は紙地図が主流でしたが、最近では自治体のホームページで公表されています。「○○市、液状化マップ」など、webでのキーワード検索で探すことができますが、見つけにくい場合は自治体の防災担当に照会してみてください。

液状化危険度マップの限界

都道府県単位の液状化危険度マップは、「地震被害想定調査」の一環として作成されています。このため、「○○県 地震被害想定調査報告書」などのキーワード検索を行い、地震被害想定調査報告書の中を捜す必要がありますが、大部分がA4サイズの図で示されているため、町丁目レベルの拡大に耐える地図ではありません。

液状化危険度マップの種類と作成方法

液状化危険度マップは、作成の際に用いる地盤情報の種類によって、下記に大別されます。

  1. ① 地形・地質情報や過去の履歴に基づく方法
  2. ② ボーリング調査や標準貫入試験、コーン貫入試験などの地盤・土質調査に基づく方法

①の地形情報等に基づく定性的方法は、過去の液状化の履歴と微地形条件等の関係の分析から導かれた液状化判定基準1) 2) 3)などに基づき作成されます。気象庁震度階級の震度5強程度など、一定の地震動強さに対する液状化の可能性の程度を「大」「中」「小」などで示すものです。
 ②の地盤・土質調査に基づく方法は、地盤の硬さを示すN値や液状化に対する抵抗率(安全率)FLを用いて、対象地点の各深さにおける液状化発生の可能性を判定するものです。最近では、FL値から求めた液状化指数PL値(FL値に深さ方向の重みをつけて積分した値で、地表面における液状化の影響の程度を示す)で液状化被害の可能性をランク付けした危険度マップが多くなっています。
 液状化危険度マップは紙地図の場合、1/1万~1/10万の縮尺で作成されており、マップの表示方法は、領域(ゾーン)表示とメッシュ表示の2種類に大別されます。メッシュ表示とは、対象地域を50m~1kmの格子(メッシュ)に分割し、メッシュごとの代表的地盤について液状化の危険度を判定するものです。前述①地形・地質情報による液状化マップは領域表示、②の地盤・土質調査など地点地盤情報による場合はメッシュ表示による液状化マップが多くなっています。

2.液状化危険度マップの読み方の留意点

液状化危険度マップは、液状化危険度の地域的傾向を見るために作成されたものが多く、個々の宅地の液状化危険度を表しているものではありません。このため、メッシュ表示の液状化危険度マップでわが家の場所の液状化危険度を見ようとしたときに、非常に見づらくなっています。また、やっと捜し出したわが家の敷地も、2つのメッシュの境界にまたがっていたりすることもあります。どちらの危険度を信用すれば良いのかと迷うより、もともと液状化危険度マップはその程度の精度だと考えた方が良いでしょう。
 東日本大震災では、以前沼があった所で局所的に甚大な液状化被害が発生し、この沼地での液状化危険度が、市が作成した液状化マップに反映されていなかったことが問題視されました。この沼地は50m×500mの大きさですが、このような局所的な土地履歴の違いは、普通液状化危険度マップには反映されていません。特に、地盤・土質調査に基づく方法で作成された液状化危険度マップの場合は、代表点の地盤資料を用いて液状化危険度を計算するため、昔、沼地や川であった場所などの違いは液状化危険度には反映されていないと考えた方が無難です。

3.自分で調べる液状化危険度

ある敷地に液状化が起こりそうな地層が存在するか否かは、ボーリング調査やコーン貫入試験をして、液状化が起こりうる土(砂がちの土)が存在するか否か、存在する場合は深さや厚さなどを調べる必要があります。しかし、このような調査は土地選びの段階で行うことはできません。その場合は、表1の情報を参考にして、以下の(1)~(7)の項目に該当するか否かをチェックし、液状化の危険性が高いか否かを判断してください。これらの項目は、わが国で過去に起きた液状化発生の事例約16,500地点の分析から得られた液状化が起こりやすい土地条件4)ですが、東日本大震災の際にも、上記の条件に該当する場所の被害が特に甚大でした。

(1) 若い(新しい)埋立地

若い埋立地とは、造成後年月が経っていない埋立地を指します。どの程度経過すれば液状化しなくなるかは、土の種類や地震の揺れの強さにもよるので一概に言えませんが、例えば、東日本大震災では造成後60年以内の埋立地で液状化被害が顕著でした。ただし、江戸時代に埋め立てられた土地でも大きな液状化被害を受けた事例も過去にあります。地盤改良せずに自然のままの状態では数十年、百数十年のオーダーでは地盤は安定しないと考えた方が良いでしょう。

(2) 旧河道・旧池沼(昔、川や沼や池があった場所)

かつて水面だった所は地下水位が浅く、川が運んできた新しい土砂や、埋め立て・盛土など人工的に敷いた砂が堆積しています。このような土地は、古い地形図(等高線が入った地図を一般の地図と区別して地形図と呼びます)を調べてください。首都圏に関しては明治10年代に作成された縮尺1/2万の地図の復刻版5)が市販されており、またwebでも公開6)されています。ただし、土地の履歴は時代によって変化するので、できれば明治、大正、昭和20~30年代と異なる時代の地形図をチェックした方が良いでしょう。古い地形図は「旧版地図」あるいは「旧版地形図」と呼び、国土地理院および地方測量部で閲覧や謄本(コピー)の頒布をしています。オンライン交付も行っています。また、地域によっては、自治体から古い時代の地形図が公開されている場合もあります。

(3) 大きな川の沿岸(とくに氾濫常襲地)

川が氾濫すると、川の水と一緒に、川が運んできた土砂が大量にあふれ出ます。水の方はやがて引いてしまいますが、土砂は残ります。氾濫が繰り返されるうちに、川沿いには埋立地に似た地盤が形成されます。大きな川は、液状化しやすい土である砂を大量に運べるため、沿岸には砂が多く堆積しています。氾濫常襲地は、川の蛇行部や合流部に多くなっています。詳しくは洪水記録や浸水実績図(市町村や国土交通省の河川事務所のホームページからも公開されている地域もあります)などを閲覧したり、古くから住まわれている住民に聞くとよいでしょう。現在は河川改修されて洪水が起こらなくなっても、昔、洪水が頻繁に起こった場所は洪水で運ばれた新しく緩い土砂が堆積しており、水はけも悪いので、液状化が起きることがよくあります。

(4) 海岸砂丘の裾(すそ)・砂丘と砂丘の間の低地

砂丘は海岸線に沿って連なる砂地の丘のような地形で、一般的には防風林で覆われています。

砂丘の砂は、砂の粒の大きさが揃った混じりけのない砂で、最も液状化しやすい土です。砂丘の頂上の方は、地下水位が深いため液状化被害は起こりにくいのですが、砂丘の裾野の部分や、砂丘と砂丘の間の低地や窪地では、地下水が湧き出している場所も多く、液状化が起こりやすい地盤と言えます。

(5) 砂鉄や砂利を採掘した跡地の埋戻し地盤

日本の海岸の多くが黒っぽい砂浜なのは砂鉄が多く含まれているためです。日本では大昔から1970年頃まで、砂鉄の採掘が盛んでした。休耕田や空き地にビルの地下室を造る時のような大きな穴を掘り、掘り上げた砂の中から砂鉄だけを取り出して、残りの砂は掘った穴に埋め戻します。海岸近くでは、元々地下水位が浅いので、穴を掘ると池のようになってしまいます。そこに「砂を戻す」ということは、海辺の埋立地と原理的には同じです。また、建設や造園に使う砂や砂利も、砂鉄と同じようにして採掘します。これは全国各地で現在も行われています。東日本大震災でも千葉県や茨城県では、砂鉄や砂利を採掘した跡地の埋戻し地盤で甚大な液状化被害が発生しました。砂鉄や砂・砂利を採掘した履歴に関しては、地形図からは判断できないため、地元情報に頼らざるをえません。最近の掘削地は、自治体の産業課や地元の砂利採取業共同組合などで分かる場合もあります。

(6) 沢埋め盛土の造成地

丘陵や台地は、低地よりも古く硬い地層で出来ているため、従来の液状化ハザードマップでは「液状化が起こらない」とされていました。しかし、ここ20年ほどの地震被害をみると、丘陵や台地を造成した宅地での液状化被害が目立っています。
 丘陵や台地などの傾斜地の地形をよく見ると、斜面に谷や沢が走っているのがわかります。宅地化する場合、急斜面や谷底には家は建てられないことから、尾根などの出っ張った斜面を切り崩して、その土で谷や沢を埋め、ひな壇状に宅地を造成します。地山を削った部分は安全ですが、谷の部分は元々地下水や雨水の通り道のため地下水位が高く、埋土が十分締め固められていないと、地すべりや液状化が発生することがあります。造成後の地形から谷筋を見分けることはできませんが、水路や池がある場合は谷筋である証拠です。詳しくは造成前と後の地形図(等高線が入った地図)と重ねあわせて地山か盛土か判断します。最近では国土交通省の宅地耐震化推進事業の一環として自治体から「大規模盛土造成地マップ」が公表されている地域もあります。

(7) 過去に液状化の履歴がある土地

液状化が起こりやすい地盤が形成されやすい地域があります。(3)の川の氾濫常襲地もその1つです。過去に液状化被害が出た場所は、液状化が起こりやすい地盤条件が潜んでいると考え、将来の地震に対しても用心した方が良いでしょう。30年間に4回液状化が繰返し起きた場所もあります。数百年という長期的な時間でみたら、徐々に液状化が起こりにくい地盤になっていきますが、1、2回、液状化が起きても地盤は締め固まりません。東日本大震災でも、過去に液状化が起きた全く同じ場所が再び液状化し、再液状化被害が問題になりました。過去に液状化が起こった場所は、文献4)に収録されています。過去に液状化の履歴がある場所では、将来も再び液状化が起こりうると考えた方が良いでしょう。ただし、その地域に大きな地震の被害記録自体が無い場合は、液状化の記録も見つかっていないことが多く、その地域が安全ということを示すものではありません。

参考文献

  • 1) 国土庁震災局:液状化マップ作成マニュアル(小規模建築物等に影響を及ぼす地盤表層の液状化判定),1992.
  • 2) 液状化対策検討委員会編集:小規模建築物等のための液状化マップと対策工法,ぎょうせい,1994.
  • 3) 国土庁防災局震災対策課:液状化地域ゾーニングマニュアル,1999.
  • 4) 若松加寿江:日本の液状化履歴マップ 745-2008(DVD-ROM付)東京大学出版会,2011.
  • 5) 明治前期測量2万分1フランス式彩色地図,(財)日本地図センター
    (地図リストは、http://www.jmc.or.jp/map/jmc/france.html
  • 6) 農業環境技術研究所:歴史的農業環境閲覧システム,http://habs.dc.affrc.go.jp/

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