液状化による被害を受けた場合、修復工法を選定するために、まずは被害の大きさ(沈下の形態、深さなど)を把握する必要があります。
不同沈下の形態には以下の2つのタイプがあります。
a) 一体傾斜・・・建物が全体的に傾斜し、建物自体に変形(歪み)が生じない
b) 変形傾斜・・・建物が部分的に傾斜し、建物自体に変形(歪み)が生じる
液状化被害を受けた戸建住宅は、主として一体傾斜となります。一体傾斜は基礎のひび割れなどの構造耐力上の問題は発生しにくく、建物の損傷よりも水はけや居住者の健康障害など使用性、機能性が問題となります。建物の傾きによる健康被害の詳細につきましては、「6.建物の傾きによる健康障害」をご覧ください。一方変形傾斜の場合は、使用性、機能性の問題のほかに、部分的な傾斜によって引き起こされる損傷や変形などの構造耐力上の問題が発生します。そのため、変形傾斜の場合は、一体傾斜よりも注意が必要です。
また不同沈下量から修復工事の必要性を判断することができ、液状化による不同沈下量の大きさが5cm程度を越えている場合は、修復する必要があると判断されます。傾斜角で表現すると6~8/1000になります。
図1 沈下傾斜の形状分類(文献1) p.254の図10.1.2より引用・修正)
区分 | 勾配の傾斜 | 障害程度 |
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1 | 3/1000 | 品確法技術的基準レベル―1相当 |
2 | 4/1000 | 不具合が見られる |
5/1000 | 不同沈下を意識する 水はけが悪くなる |
|
3 | 6/1000 | 品確法技術的基準レベル―3相当 不同沈下を強く意識する |
7/1000 | 建具が自然に動くのが顕著に見られる | |
4 | 8/1000 | ほとんどの建物で建具が自然に動く |
10/1000 | 配水管の逆勾配 | |
5 | 17/1000 | 生理的な限界値 |
沈下傾斜の修復を行う場合、修復後に再び液状化が起きた時に備えて修復と同時に液状化対策を行うというケースも考えられます。そこで、液状化対策の有無も含めた修復工法選定の手順を図2のフローに示します。
図2 修復工法選定手順(文献1) p.258の図10.2.2より引用)
戸建住宅の液状化による沈下傾斜の修復工法としては、アンダーピニング工法、耐圧版工法、ポイントジャッキ工法、注入工法などがあります。各工法によって不同沈下量の大きさなどの施工条件が異なるため、工法の選定にあたっては、各工法の詳細とその特徴をよく理解した上で選定しなければなりません。修復工法の概要を表2に示します。なお、注入工法に関しては、隣地への十分な影響を考慮する必要があります。そのためにも、施工計画書が提出でき、薬液注入技術者が常駐できるような会社を選ぶことが大切です。また、薬液注入工法だけではなく、全ての修復工法に共通のことですが、修復工法の選定にあたっては、まず地盤調査を実施しなければなりません。場合によっては、地盤面の下が液状化により空洞になっている場合も考えられます。地盤調査をしないような会社は適切な会社とは言えません。
工法名 | アンダーピニング工法 | 耐圧版工法 | ポイントジャッキ工法 | 注入工法 | |
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工法の概要 | |||||
基礎下を掘削して建物荷重により1m程度の管杭を継ぎ足しながらジャッキで圧入する。支持層まで貫入後、これを反力にジャッキアップする。 | 基礎下を順次掘削して仮受けと打設を繰り返して良質な地盤面に一体の耐圧版を構築し、耐圧版を反力にジャッキアップする。 | 基礎を一部斫り土台下に爪付きジャッキを挿入してジャッキアップする。補強等を行い既存基礎を再使用する場合が多い。 | 基礎下へグラウトや薬液等を注入し、注入・膨張圧によりアップする。 | ||
施工条件 | 基礎形式 | 布基礎、べた基礎 | 布基礎、べた基礎 | 布基礎、べた基礎 | べた基礎 |
不同沈下量 | 条件なし | 条件なし | 10cm程度以下 | 20cm程度以下 | |
隣地境界距離 | 1m程度(離間距離無くても可※1) | 1m程度(離間距離無くても可※2) | 0.5m程度以上 | 1m程度以上 | |
床・壁の解体の有無 | 床の解体・復旧がある場合もあり | 床の解体・復旧がある場合もあり | 床と壁の一部解体・復旧あり | なし | |
仮住まいの必要性 | なし | なし | なし | なし | |
工期 | 3~6週間 | 3~5週間 | 3~5週間 | 1~2週間 | |
工事費 | 600~1000万円程度 支持層の深さにより変動 |
500~700万円 | 200~300万円 床・壁の復旧費用が別途必要 |
300~600万円 | |
備考 | 液状化層下部の地盤で支持すれば再液状化に対しても効果が期待でき、現状の修正工法では最も信頼性が高い。支持層が深くなると継ぎ足す箇所が多くなるため、継ぎ部の品質や鉛直度に注意が必要。 ※1 トンネル式に掘削することにより可。但し地盤条件による。 |
支持層が浅い場合や沈下が終息しているときに採用される工法であるため、再液状化に対しては注意が必要。 ※2 トンネル式に掘削することにより可。但し地盤条件による。 |
沈下が終息しているときに採用される工法であるため、再液状化に対しては注意が必要。アンカーボルトを切断してジャッキアップするため、修復後の基礎と上家の緊結にも注意が必要。 | 液状化層への注入改良ができれば再液状化に対しても効果が期待できる。工事後、1年程度地盤が安定するまで経過観測が必要。 |
一体傾斜を対象にした液状化修復工法一覧における工事費積算の条件は以下の通りです。
液状化修復工法について、詳細に知りたい方は下記にご連絡ください。
表2の液状化修復工法一覧における工事費は、液状化による傾斜を修復するための基礎・地業工事のみを対象としているために注意が必要です。なぜなら、修復工事を行う場合、基礎・地業工事と同時に、設備工事(給水管、排水管、ガス管等の切断復旧)や建物の外壁、内装等の補修を行う場合がほとんどです。したがって、基礎・地業工事の費用だけではなく、設備工事の費用や建物の外壁、内装等の補修費用を別途考慮する必要があります。
建物上部の被害が少なく基礎・地業工事が主体の補修工事の事例や基礎・地業工事だけでなく設備・建物上部・外構等の工事を含む補修工事の事例があります。
CASE1-基礎・地業工事を主体とした補修工事の事例
図3 CASE1の間取り
CASE1の工事費内訳を図4に示します。CASE1の総工事費は約400万円で、諸経費はそれぞれの工事に含まれています。
図4 CASE1の工事費内訳
各住宅がバラバラに修復工事を行うよりも、街区単位※3で修復工事を行うことで工期が短くなり、コストが下がると考えられます。街区単位で修復工事を行うメリットは以下の通りです
※3 街区単位:本節では、自治会・町内会あるいは道路で囲まれた一区画等の単位を街区単位と表現しています。