液状化被害に遭わないためには、まず液状化しにくい敷地を選ぶことが重要です。2章では液状化危険度を自分で調べる方法について解説しています。
敷地が決まれば、さらに詳細に液状化の危険度を検討することになります。この章では戸建住宅のための液状化判定の方法について紹介しています。
もし液状化の可能性がある敷地に家を建てるのであれば、地盤調査、とくにその中でもボーリング調査・標準貫入試験の必要性を提案する設計者を選ぶことをお勧めします。
3章では戸建住宅の地盤調査法を詳しく解説しています。
そして、液状化の可能性がある敷地の場合に、地盤改良が必要と提案された場合は、様々ある液状化対策について費用対効果などのメリット・デメリットを理解し判断することが大切です。4章の後半では、戸建住宅に対する液状化対策工法を紹介しています。
液状化被害は現在の技術でも完全に予測することはできません。設計者・技術者としっかりとコミュニケーションをとって、液状化対策が必要なのかどうか、どのような対策がよいのか、建築主が責任を持って判断しなければなりません。確実を期すためには、地盤の知識がある他の専門家にセカンドオピニオンを求めるとよいでしょう。
戸建住宅の場合、液状化判定に必要な土質定数を得るための調査や試験が行われることはまれで、地盤調査としてスウェーデン式サウンディング試験(以後、SWS試験と呼ぶ)だけが行われるのが一般的です。戸建住宅のように軽量な構造物の液状化による被害は、過去に発生した中規模地震動の場合でみると、概ね地表面から5m程度の深さまでの層の液状化に起因していることがわかっています。このことから、日本建築学会小規模建築物基礎設計指針では、液状化発生の可能性の検討は、地表面から5m程度までの地下水で飽和した砂層について行っています。しかし、東北地方太平洋沖地震では、必ずしも5mが適切でないことがわかりました。そこで、再度判定法については日本建築学会基礎構造運営委員会の下部組織である小規模建築物地盤調査小委員会にて見直しを行いました。その結果は、第4章に液状化簡易判定法として記述されています。
SWS試験は元来支持力を求めるための試験で、①土が直接確認できない、②試料採取を伴わないため土質試験ができない等の理由から、SWS試験だけでは液状化が発生するか否かの判定が行えません。判定を行うには、地下水位の測定や簡易的な砂・粘土の判別方法による液状化層厚、非液状化層厚の把握、砂層の標準貫入試験のN値、粒度特性等の情報も必要になります。一般には、SWS試験時における感触や音及び抵抗の状況から非液状化層を判定しているケースが多いようですが、できるだけ土を採取することが望ましいといえます。現在はSWS試験を実施した孔を利用して土砂を採取するサンプラー(写真1、図1)も開発されています。
その他、宅地地盤を対象とした電気式静的コーン貫入試験(CPT)も液状化の判定に使用されるようになってきました。これは測定器の先端にあるコーンの抵抗と間隙水圧(土粒子間にある水の圧力)、コーン自体の周面摩擦の3成分を同時に測定できる試験です。ただし、現状では礫等が混入する地盤においては、貫入能力に課題があり、これが解決されればこれからの液状化判定調査法として大いに期待できる試験法です。
図1 板ばね式簡易サンプラー
写真1 回転式簡易サンプラー
SWS試験は、土の静的貫入抵抗を測定し、その硬軟または締まり具合を判定するとともに概略の地層構成を把握することを目的としてJIS A1221:2013に準拠して実施するものです。
測定方法は図2に示すように、スクリューポイントを先端に装着したロッドを調査地点に垂直に立て、上部に250, 500, 750, 1000N(25, 50, 75, 100kgf)の重りを段階的に載荷し、荷重Wswと貫入量Nswを測定します。また、1000N(1kN)時でロッドの貫入が止まった場合には、貫入量を測定した後、鉛直荷重が加わらないようにロッドを右回りに回転させ25cm(目盛線)貫入させるために要する半回転数Nswを測定するものです。
図2 SWS試験概要図 1)
現在一般的に使われているSWS試験は、写真2~写真4に示すように、①手動式、②半自動式、③全自動式の3通りありますが、それぞれ表-1の問題があり、同じ試験でも試験機の違いにより異なった結果が得られる可能性があります。
試験機 | おもりの載荷、除荷 | 回転作業 | 特性 |
---|---|---|---|
手動式 | 手動 | 手動 | 試験の鉛直性、作業員の個人差が問題 |
半自動式 | 手動 | 自動 | 作業員の個人差が出にくい |
全自動式 | 自動 | 自動 | 機材が大型化、自沈の判定が曖昧 貫入に伴う感触を把握することが困難 |
その他、以下の問題が挙げられます。
SWS試験で自沈が確認された場合は、手動による除荷が困難なために貫入抵抗が過大評価となる可能性があるため、このような地層の場合、強度定数や圧密沈下の有無等を確認する必要があります。ただし、この試験では地盤の硬さや締まり具合を確認することは可能となっていますが、圧密特性(土が長期間にわたって少しずつ締め固まって沈下する性質)を把握することはできないので、沈下予測を定量的に評価するためには、試料を採取し、圧密試験を実施することを推奨します。
SWS試験は、スクリューポイントを回転しながら、貫入する試験であるため、コンクリートなどの硬いガラを混入する盛土や礫などが混ざっている地盤では貫入不能となり、目標の深度まで調査を実施できないことがあります。
写真2 手動式による試験風景
写真3 半自動式によるSWS試験
写真4 全自動式によるSWS試験状況
電気式静的コーン貫入試験(CPT)は、先端角度が60°のコーンの形をしたプローブを静的に地盤に圧入し、地盤の先端抵抗、周面摩擦、間隙水圧の3成分を連続的に深さ方向に測定するものです。地盤の支持力や土質分類、液状化判定など様々な地盤情報を同時に得ることができます。
CPTはボーリング調査、室内土質試験と比較してより簡便に実施することが可能であり、原地盤の情報を直接かつ連続的に測定することができ信頼性の高い調査方法であると言えます。図3はCPTのイメージを示したものです。標準で2cmごとのデータを測定し詳細な地盤情報を得ることが出来ます。また。1日で深度20mの調査が可能です。図4はCPT測定データの例です。測定された先端抵抗と周面摩擦抵抗の比から土質を推定することが出来ます。例えば、図5の左側の図において両者の比の値が領域No.7にプロットされると土質は「砂」と判断されます。
図3 CPT試験のイメージ
以上のように推定された土質、先端抵抗、周面抵抗、間隙水圧から土の液状化抵抗を求め、対象とする地震力に対する液状化安全率FLを推定します。FLが1未満で、値が小さいほど液状化する可能性が高いと判断されます。同じFLの値でも地下浅いところにある土ほど地上の構造物に与える影響が大きいことから、FLの値に深さ方向の重みづけをして液状化指数PLを求めます。最近では、このPLの値を指標として液状化の影響の危険性が判定されることが多くなってきました。
ボーリング調査とは、掘削機を用いて地盤にボーリング孔をあけることを言い、その目的は地盤調査、地下資源の開発など幅広い分野にわたっています(写真5)。建設工事に伴う地盤調査は、土質調査を目的として行われ、その結果はボーリング(土質)柱状図として表現されます(図7)。前述のように、スウェーデン式サウンディングより地盤調査の信頼性が高く、規模の大きい建物や施設を建設する際には必ず実施されます。
ボーリング孔から採取された土質試料は、性状が目視観察され、ボーリング柱状図の記事の欄に記載されます。採取された試料を用いて粒度試験や各種の力学試験などの土質試験を行います。また、ボーリング孔を利用して地下水位測定や標準貫入試験が行われるのが一般的です。
標準貫入試験とは、原位置における地盤の硬軟、締まり具合を知るN値を求めるための試験で、あらかじめ所定の深度まで掘進したボーリング孔を利用して、重さ63.5kg±0.5kgのハンマーを76cm±1cmの高さから自由落下させて、ボーリングロッドの先端に取り付けられた標準貫入試験用サンプラーが30cm打ち込まれるまでの回数N値を計ることで地盤の強度の指標とします。N値は図7にも示すように、土質柱状図の右側に記載され、ボーリングと標準貫入試験の結果を総称してボーリング調査資料とか地盤調査資料と一般に呼ばれています。なお、N値のグラフに「自沈」と記載され、N値が0を示している場合があります。これはハンマーが落下しない状態で、ボーリングロッドやドライブハンマーの自重のみでサンプラーが貫入したことを意味しており、地盤が極めて軟弱であることを示します。
標準貫入試験のN値が大きいほど固く締まった地盤になりますが、表2に示すように、同じN値でも土質により地盤の硬さは異なります。表中の土の状態を表現する形容詞として、砂質土は「緩(ゆる)い」「密(みつ)」「締まっている」という言葉が用いられ、粘性土は「軟らかい」「硬い」と表現されます。表の1に該当する地盤は極めて支持力が小さく、地盤改良や杭基礎など布基礎以外の基礎とすることが推奨されます。表の2に該当する地盤であっても、砂層でN値10以下の場合、大地震で液状化したケースが極めて多くなっています。N値10以下でかつ地下水位以下の砂層が厚い場合は、液状化に対する対策が必要と思われます。
写真5 ボーリング調査の作業状況
図7 ボーリング柱状図の例
土の状態 | 砂層 | 粘土層 | |
---|---|---|---|
1 | 極めて緩い 極めて軟らかい |
0~4 | 0~2 |
2 | 緩い 軟らかい |
4~10 | 2~4 |
3 | 中位 | 10~30 | 4~8 |
4 | 密に締まっている 硬い |
30~50 | 8~15 |
5 | 極めて密である 極めて硬い |
50以上 | 15~30 |
6 | 極度に硬い | 30以上 |
紹介した試験・調査法の他、近年では動的コーン貫入試験も普及してきています。動的コーン貫入試験は、標準貫入試験と同様にドライブハンマーを自由落下させて、所定の貫入量に達する打撃回数を計測する試験です。打撃エネルギーの大きさの違いにより、大型動的コーン貫入試験(SRS)、中型動的コーン貫入試験(MRS)、小型および簡易動的コーン貫入試験などがあります。
ピエゾドライブコーン(Piezo Drive Cone:PDC)は、近年開発された動的コーン貫入試験で、原位置での地盤の硬さや、水位および土質判別ができるため、液状化判定の新しい試験法として期待されています。
宅地の支持力を求めるための一般的なSWS試験は、1宅地につき約5万円程度で行われています(SWS4箇所程度、深度5m)。SWS試験で液状化判定を行う場合には、これに加えて、調査深度を最大10mとすることや試料採取、室内試験を追加する必要があります。これに代わる試験としては、電気式コーン貫入試験(CPT)、ボーリング調査といった方法があります。これらの試験の概算費用を比較すると以下のとおりとなります。
調査方法 | 調査費用 | 備考(1宅地あたり調査深度10m) |
---|---|---|
SWS+液状化判定 (試料採取、室内試験) |
約15~25万円 | SWS1箇所 試料採取及び室内試験10個 |
電気式コーン貫入試験 (CPT) |
約20~30万円 | CPT1箇所 |
ボーリング調査 (標準貫入試験、室内試験) |
約30~70万円 | ボーリング1箇所 試料採取及び室内試験10個 |
既設の住宅がある場合の調査も宅地の液状化判定方法は同じであるため、表3で紹介されている調査となります。しかし、既設の住宅がありますので、調査スペースの問題などにより、採用できないものもあります。また、近隣のボーリング調査のデータなどがある場合は、参考になります。
通常、原位置試験は、1~2日でできますが、サンプリングした試料で室内試験を実施して液状化判定結果が出るまでには、一週間程度かかります。
戸建住宅の液状化の可能性を判断する地盤調査を行うには、地盤に対する豊富な経験と質の高い技術的判断が必要です。地盤調査を専門とする調査会社に依頼することが望ましく、下記の相談窓口を通じて調査を依頼されることをお勧めします。
地盤保証制度について平成21年10月から「住宅瑕疵担保履行法」が施行されました。住宅瑕疵担保履行法に基づく保険に、地盤調査や補強工事を原因とする住宅の不同沈下などの事故に対して、保険等により10年間保証する仕組みです。
ただし、現行の制度では地震等液状化に対する保証はありません。