平成13年(第56回)
近畿地区短大・高専・専修学校並びに工業高校卒業設計コンク−ル審査報告

審査委員長(互選)
審査員
日 時
審査会場

 

布野 修司
笠原 一人・木多 道宏・木村 博昭・末包 伸吾・竹原 義二・山本 光良(50音順)
平成14年4月11日(木)
大阪科学技術センタ−(6階605号室

審査経緯

 平成13年度、近畿地区短大・高専・専修学校、並びに工業高校「卒業設計コンクール」(第56回)の審査は、平成14年4月11日、大阪科学技術センター会議室において、7名の審査員全員の出席によって行われた。

 本コンクールの主旨、前年度の実績、13年度コンクールの応募状況、審査に関する内規を確認した後、互選により布野を審査員長に選出した。応募総数は、「短大・高専・専修学校の部」17作品、「工業高校の部」8作品で、昨年度に比し、前者は4作品減、後者は1作品増であった。一昨年と比べると、前者は5作品減、後者は3作品増である。

 審査に当たっては、各部門3作品を必選することをまず確認し、審査方法について議論した。結果、まず、個々の審査員が全作品を入念に評価した後、それぞれすぐれていると考える作品を各部門3点以内記名投票することとし、その後の進め方については投票結果を踏まえて議論することとした。

 ほぼ1時間半の審査の後、記名投票を行った結果は、「短大・高専・専修学校の部」では、bW−6票、bT−5票、bV−4票、bX,bP5−2票、bP1,bP7−1票、「工業高校の部」では、bV−7票、bW−5票、bS−3票、bQ−2票、bP,bT−1票であった。以上の投票結果を踏まえ、まず「工業高校の部」について、続いて「短大・高専・専修学校の部」について検討することとした。

 各部門とも、まず投票の無かったものについて、委員それぞれがコメントし、入選作品とはならないことを確認、続いて得票の少ない順に、推薦者の評価理由を中心として議論を行った。

 「工業高校の部」については、満票を得たbVと5票を得たbWを入選とし、残る一点についてさらに議論を重ねた。bPについては、ほのぼのとしたセンスが、bQとbSについては、手堅いまとまりが、bTについては図面の密度が評価された。しかし、それぞれ欠点も指摘され全員一致とはならなかったため、再度記名投票を行い、bS−4票、bT−2票、bQ−1票という結果、bSを入選作に加えることとした。

 「短大・高専・専修学校の部」では、まず、同様に団地再生をテーマとするbRとbVの評価が議論になった。現実性の高いbRは1票も得ていないが、スケルトン、インフィル分離などビルディング・システムの提案が全くなく「再生」というテーマも自覚されていないbVの問題点も指摘され、二つの作品の優劣が問題となった。また、1票も得ていない作品で気になるものとして、bP6、bSがあげられた。議論の末、まず、町工場地区の再生という今日的テーマを高水準にまとめたbWを入選作品とすることとし、さらに議論を重ねた。まちづくりをテーマにするなかではbTの評価が高かったが、bP7の作業を高く評価する意見もあった。また、bVへの疑問から、新たにコミュニティ・スクールの提案bP5の評価も加えられた。議論の末、過半数以上を獲得したbT,bV,bWの三作品を入選作とする方向が確認されたが、いずれも「再生」をテーマとする点で入選作のバランスが議論された。最終的に記名投票で決することとし、投票の結果、bT,bVが4票、bX,bP5が3票となった。僅差ではあったが、bT,bV,bWを入選作品とすることと決定した。

 

審査概評

 入選作に「まちこうば再生」「団地再生計画」などが並ぶように、再生、リノベーションをテーマとする作品が目立った。時代の流れであろう。

  団地再生をテーマとするものは2作品もあった。また、既成市街地に新しい要素を組み込もうとするもの、既存のストックを巡礼の道に沿って整備しようとするもの、かつての万博会場をリノベートしようとするもの、歴史的街区を寺小屋として蘇生しようとするものなど、時代の流れを敏感に感じながらの提案はそれぞれ好感がもてた。時代との応答という意味では、池田小学校問題を背景とするコミュニティ・スクールの提案、不況を重く受け止める起業家学校の提案、コーポラティブ・ハウスの提案、高齢社会を背景とする老人センターの提案などもあった。

 身近なまちを見直しながらまちづくりについて提案するものもひとつの傾向である。詳細なサーヴェイを展開するものに力作があった。問題は、具体的にどのような空間を提起できるかである。そういう意味では、新たな歩道橋空間の提案など具体的に身近な新しい空間を提案するものにも好感をもった。

 最大の議論になったのは、団地再生の2作品である。すなわち、個々の作品の評価を超えて、団地再生について審査員の間に議論を喚起させる力が2作品にはあったといえるであろう。戦後日本の居住地景観をつくった団地については、オイルショック後、その増改築が現実的課題となったことがある。そして、いくつか事例がある。しかし、結局は建て替えた方がいい、というのが当時の結論であった。しかし、団地再生という課題はより現実的な課題と成りつつあるというのが現在である。

 「短大・高専・専修学校の部」bRはその課題に真摯に答えようとしたようにみえる。よりスマートにしたファサード・エンジニアリングへの期待を予感させた。しかし、審査員の票を集めたのは「短大・高専・専修学校の部」bVであった。この作品は、むしろ、新たな集合住宅の提案とみなすべきであろう。多様な住戸を組み合わせ、豊かな団地景観をつくりだそうとする試みが魅力的であったということであろう。ただ、ビルディング・システムへの配慮がなく、「再生」の意味が希薄となっているのが残念であった。

 審査員会が一致してひとつの傾向を推すということにいささか危惧があり、USJ的発想であるが、太秦の映画村をロス・アンジェルスに持っていこうとする作品としてアイディアを買える「短大・高専・専修学校の部」のbP1、道頓堀川の再生に関わる作品として水準の高い「短大・高専・専修学校の部」のbXを推したが賛同を得られなかった。

 給水設備設計をテーマとした作品は力作であったが、評価の軸が異なり、作品群の中に位置づけることができなかった。

(布野)

 

Old Meets New
加藤 由紀 君(中央実務専門学校)

 本作品は、市街地の中に埋没した旧来の港町・兵庫県高砂を対象に、消失しつつある街の資源を掘り起こしながら、生き生きとした住環境を回復・形成しようとする提案である。
 歴史、街並み、町家、人々の生活様式などについて、地域の読みとりが充分にされており、図面への表現も良くできている。また、街路や町家の空間構成を継承するといった空間面での提案に加え、産業の衰退と少子高齢化による課題を改善するためのしくみや人の出会い等、社会的な環境形成にまで踏み込んでいる点が、より一層提案の説得力を高めている。
 空間の計画は、堀川沿岸における街の核の形成や、地区内各所での町屋の再利用など、地域全体にバランス良く目を配った拡がりのある構成となっている。さらに、平面図には生活場面や場所の使われ方等が豊富に書き込まれており、高齢者、子ども、職人等の生活支援に対する様々なアイデアを読みとることができて興味深い。
 タイトルにある「New」の要素が何を指すのか理解し難い面もあるが、従来より育まれてきた生活環境の継承が誠実に検討された成果であるとも解釈できよう。より一層の研鑽を期待したい。


(木多)

Re─Kodan Danchi
大槻 薫 君(明石工業高等専門学校)

 明石市と神戸市の舞子地区にまたがって広がる「明舞団地」の中の一つの住棟をモデルとした「再生計画」である。スラブや壁など既存の建物の骨格を残したまま、そこに新たに細長い住宅の「ユニット」を差し込むことによって「再生」が行なわれる。「ユニット」はコア配置の違いによって、7つのタイプがつくられている。また挿入される「ユニット」と「ユニット」の間には「ヴォイド」が設けられて、半屋外の小さな公共広場として使うことが提案されている。
 ここでは、均質になりがちな団地での生活や住居プラン、風景に対して、一定のシステム化を通じながらも多様性を与えようとしていることに特徴がある。「再生」のあり方として明快なビジョンが提示されていること、詳細で具体的なプログラムが設定されていること、さらに卓抜なプレゼンテーションに支えられていることなどの点で、非常に高く評価できる。
 ただ、いくつかの問題点も指摘できる。まず、この計画は既存の建物については最低限の骨格以外には何も残しておらず、ほとんど「建て替え」に近いものとなってしまっている。もう少し既存のものを視覚的、空間的に残しながらの「再生」を提案した方がよかったと思われる。また既存の建物の骨格の残し方が構造的に不十分だと思われることや、挿入された「ユニット」の長い突出を支える構造的な技術が具体的に示されていないなどの問題点が指摘できる。「ユニット」の間に設けられた「ヴォイド」には、必要以上に大きい部分も見られ、具体的な利用方法もわかりにくい。
 いくつかの問題点により、実現に向けての「リアリティ」に欠けた計画になってしまっていることは否めない。しかし、問題設定の明快さと様々なプログラムの設定、優れたプレゼンテーションによって支えられており、団地の「再生」としての新たな「可能性」を感じさせることにおいて高く評価できるものである。

(笠原)

『まちこうば再生計画』
森田 真樹 君(大阪工業技術専門学校)

 森田君の『まちこうば再生計画』は,小規模な住宅と工場が混在し,近年,衰退が加速するなど様々な都市的問題を有する場所を計画敷地に,街区全体を再構成し,そこに新旧の機能を配することで先の問題の解決を図ろうとした意欲作である。
 まず,街区に5つの同じ大きさのボリュームを平行に配する。5つの棟は,メディアプール,インターフェイス棟,工場(こうば)パーク,アミューズメン棟(トウ),フリー住棟と名付けられる。各棟は,ネットカフェ,コンビニ,ショウウィンドウ,大浴場,日曜大工教室などの諸機能が工場と密接に関連づけられ複合されることで,工場自身が従来有した機能が組み替えられるとともに,より多くの人々の利用が促されることで街区全体の再生が図られる。
 レイヤリングされた全体配置構成をはじめ,各棟における機能の解体と再構成,その形態や素材の持ち方など,極めて洗練され安定したデザイン能力を感じさせる作品である。さらに,時間による使用形態の差異や空間の使い方を執拗に提起した点で,単なる図形的処理のみの計画を大きく凌駕するものとなっている。この受賞を機に更なる飛躍を期待します。

(末包)

MUSEUM 〜the sea can be seen from…〜
木下 麻美 君(兵庫県立兵庫工業高等学校)

 本作品は海を望む美術館である。プログラムには新しい提案は見られないが、ていねいに書き上げられた図面からは美術館と海との関係が読み取れ、人が動くことによってその関係はより明らかになっている。
 CADによる図面が多い中で、力強く説得力のある手書きの図面にはリアリティがあり、美術館と街とのつながりが印象づけられた。特にパースでの表現は突出したものではなかったが外部と内部との連続感が読み取れ、見る者をひきつける表現力があり、入選作品にふさわしかった。
 しかし今後の課題としては、問題をうまく解決しまとめあげることだけではなく、新しい問題を提案することにある。建築を通して社会とのあり方を問い直すような作品を期待している。
 木下君の今後の活躍が楽しみだ。

(竹原)

平成版寺小屋物語
福田 尚人 君(兵庫県立龍野実業高等学校)

 この計画は、城下町である龍野を舞台に、街並み保存とさらには街の活性化のその両立を担う核的施設を考えられたものである。龍野は、河川と山並み自然と、瓦屋根と白と黒の壁塀、そして、味噌醤油蔵群など、失われつつある城下町の昔ながらの素朴さと地域性がまだ残る数少ない街である。この計画を見る限り作者は、この街並みに愛着と親しみを持ち、そして、ここで想定された場所の選択や商店街が抱える問題など、この地域の特性と現状をよく理解していることが解る。 問題提起に対し、その建築的解決に正面から挑み、醤油蔵群の保存と景観の再生、さらにはその建物の保存的な形態にだけに終わらず、街の活性化を促す仕掛けを考え、商店街や自然のふれ合い、住民達の地域愛などの大切さを取り戻そうとする、再生に向けたしっかりとしたコンセプトを掲げ、全体計画を見事にまとめ上げている。高校生とは思えないような大人の設計である。

(木村)

兵庫県立近代美術館 永遠流積(とわりゅうせき)
枡野 考平 君 他 4名(大阪市立工芸高等学校)

 本作品は震災復興の目的のために、兵庫県立近代美術館の再建を契機とし、神戸の町に新しい文化、交流を生み出し、21世紀に相応しい新しい神戸の再生を図る計画である。
 近代美術館の機能を単に収集、展示のみならず、情報や作品そしてそれを鑑賞する人々などこの施設を中心として、新しい交流や神戸文化を発信するためにそれぞれの機能に合わせたさまざまな空間が提供されており、またそれぞれのスペースは魅力的でアメニティの高い空間を目指そうとしている。作品全体としての統一性は少ないが作者の目的を追求する熱意が感じられる。
 また、海沿いの立地を生かした計画と施設配置となっているが、神戸の都市空間は海岸沿いに細長く展開しており、そのため都市景観の基本構造として山から海へ抜ける空気や視線の流れを優先する構造となっている。本計画案のように東西に長い施設の場合は、南北に透過する空間が施設の中に効果的に計画されればよりのぞましかった。とはいえ主な施設を海岸沿いに伸びやかに配置し、施設へのアプローチを交流や文化活動のための自由な広場として公園化(ミニパーク、小広場、小道)することにより、山側への環境配慮を最大限もたせたことや、具体的な展示計画、動線計画をふまえた計画を評価した。

(山本)

応募作品リスト(短大・高専・専修学校の部)

No

作 品 名
学生氏名
大 学・学 科
図面
枚数

『OCTビルC号館新築工事・     給排水衛生設備設計図』

田中 稔光

大阪工業技術専門学校 建築設備科
13

ぎゃらりー かふぇ ─京・嵐山の多目的space─
佐藤 夏織
聖母女学院短期大学 生活科学科
 4

Danchi Refine
小林 大介
中央実務専門学校 建築工学科
 5

螺旋(らせん)
玄海由加里
平安女学院短期大学 生活学科
 8

Old Meets New
加藤 由紀
中央実務専門学校 建築設計科
10

草彩情(葬斎場) 共存・共鳴・共感を求めて
池田  豊
修成建設専門学校 都市開発工学科
12

Re−Kodan Danchi ─明舞団地再生計画─
大槻  薫
明石工業高等専門学校 建築学科
 6

『まちこうば再生計画』
森田 真樹
大阪工業技術専門学校 建築学科
18

Watch Your Step!
守本 武司
中央実務専門学校 イブニング建築設計科
14

10

祈りの道をまもって 箕面「西国巡礼道」ミュージアム
林  愛記、森田 美生
大阪青山短期大学 生活科学科
25

11

Uzumasa Satsueisyo America
秦  誠一
修成建設専門学校 総合建築学科
 6

12

『終わりなき旅』
戸田 光一
大阪工業技術専門学校 建築総合学科
 8

13

C.O. ─人と人の対話─
西山 陽子
京都情報ビジネス住環境専門学校 環境デザイン学科
 4

14

Aqua theater
山本 明子
京都国際建築技術専門学校 建築科
 9

15

LET’S CROSS THE SCHOOL
中  沙織
修成建設専門学校 女子建築設計科
 6

16

PAY IT FOWARD 〜起業家学校〜
奥井 真也
兵庫科学技術専門学校 建築デザイン・CAD学科
10

17

嵯峨野水辺空間プロジェクト
吉澤 香織
京都嵯峨芸術大学短期大学部 デザインコース
13

(受付順)以上17点

応募作品リスト(工業高校建築科の部)

No

作 品 名

学生氏名

所 属

図面
枚数

Noah’s Ark
山本  恵
滋賀県立八幡工業高等学校 建築科

『和人堂 〜お年寄りが集う多目的音楽ホール〜』
田中 佳織
京都市立伏見工業高等学校 建築科

コーポラティブハウス
太田垣孝治
兵庫県立豊岡実業高等学校 建築科

MUSEUM 〜the sea can be seen from…〜
木下 麻美
兵庫県立兵庫工業高等学校 建築科

SEA GATE (biotechnology)
太田 琢也
兵庫県立尼崎工業高等学校 建築科

鶴見緑地のリノベーション
中村 良平
大阪市立都島工業高等学校 建築科
10

平成版寺小屋物語
福田 尚人
兵庫県立龍野実業高等学校 建築科
兵庫県立近代美術館 永遠流積(とわりゅうせき)
枡野 考平 他4名
大阪市立工芸高等学校 建築デザイン科
13

(受付順)以上8点