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インタビュー(様々な活動している方をご紹介していきます)
木原 隆明さん
木原さんは、趣味として折り紙建築を始め、創始者の建築家・茶谷正洋さんから直接指導を受けた後、創作も行いついには茶谷さんと共著で折り紙建築の本を出版し、世界に広めているというまさに「折り紙付き」の折り紙建築士です。

現在は建設会社に勤務する傍ら、日本各地やアメリカの博物館で折り紙建築や建築構造学を利用した空間体験ワークショップの講師を多数務められています。地元の新潟では「建築と子供たちネットワークにいがた」のメンバーとしても広く活躍されています。

今回は「折り紙建築」についていろいろとお話をお伺いしました。
木原隆明
(きはら たかあき)

1951年 新潟県生まれ/東海大学大学院修了/一級建築士・建築構造士/建設会社勤務/建築と子供たちネットワークにいがたメンバー /著書に「折り紙建築・世界の名建築をつくる(共著)」「建築教室−生きのびる子供たちのために−(共著)」ほか ホームページ
−まず「折り紙建築」とはどういうものなのですか?
・1枚の平らな紙に切り込みと折りスジを入れてそれを折ると建物の姿が立体的に浮かび上がってくるものです。すべて折り畳めるように設計されていて、90°に開くタイプと180°に開くタイプのものがあります。

−飛び出すカードのようなものですか?でも「折り紙」建築ではないのですか?
・たいていの人は「折り紙」というと、折鶴のような「伝統折り紙」と呼ばれているものを想像してしまうようです。切って折るカードを「折り紙建築」ということには「どこが折り紙なの?」という疑問があるかもしれません。ですが、紙を「折る」ために切り込みを入れるのは「折り紙」の仲間として認められている様です。

−木原さんが「折り紙建築」に関わるようになったきっかけは何ですか?
・本屋でたまたま茶谷さんの折り紙建築の本を見つけて立ち読みしたのが最初の出会いです。こんな世界があったのか!と驚いたと同時に、製図には慣れていましたから自分にもできるかもしれないと思い、本を買って自分で2、3個作ってみました。

−それで始められたのですか?
・いいえ。確かに面白かったのですが、建築の仕事をしていて忙しかったので「老後の楽しみ」にでもしようと本だけは全部買い、しばらくそのままになっていました。

−では始められたのは・・・?
・1991年に「親と子の都市と建築講座(このWEBサイトを作っている建築学会の委員会と国立科学博物館が共催しています)」の一つに茶谷さんが講師の折り紙建築教室が上野の科学博物館で開催されるという記事を見つけて、その講座に参加しました。自分で本を見るだけではわかりにくいこともあったのですが、直接茶谷さんから教えていただき、それまでの疑問が解決し一気にコツをつかみました。そうすると楽しくなって、持っていた本に載っている作品は一通り全部作ってみました。

−全部作ってしまったその後は?
・自分のオリジナルなものを作ってみたくなりました。しかもただ作るのではなく、新たなチャレンジとして180°タイプのものでも1枚の紙から全てつくれるようにしたかったのです。

−なるほど。そういえば茶谷さんは作品によっては別のパーツを貼っているものもありますね。

−オリジナル作品の中で一番気に入っているものは何ですか?
・何といっても「シドニーオペラハウス」です。ニューヨークにあるクーパーヒューイット・ナショナル・デザインミュージアムの永久コレクションにもなっている僕の代表作です。

・「折り紙建築」の本を見てもらえばわかると思いますが、本に載せる作品には、モデルとなった実際の建物の設計者や関係者からサインを入れてもらう、ということをはじめに決めていたのです。ですからオペラハウスの時も設計関係者者にサインをお願いしました。

−それがこの作品ですね。
・ところが最初に送ったものは、「設計に忠実でないものにはサインできない」という返事で送り返されてきてしまったのです。

−ではどうしたのですか?
・その時一緒に「もしこの通りに作ることができたらサインをしよう」と設計図も送られてきました。オペラハウスは屋根の部分のシェルがいくつも重なった形をしているでしょう?それを一枚の紙から切り起すにはどうすればいいのか、それから毎日通勤途中に考えました。

・1ヶ月の間毎日考え続けて、もうこれ以上は考えられない、限界だ、というところまで考えて作り、恐る恐るもう一度送ってみました。

−返事は・・・?
・「予想以上の出来だ!」と誉めていただき、ちゃんとサイン付きで返ってきました。その時のことがとてもうれしくて、それですっかり折り紙建築にはまってしまいました。

−作品を考えて作るのも大変だけどサインをもらうのも大変・・・
・上海ワールドファイナンシャルセンターをつくって設計者にサインをお願いした時は、設計者が僕の作品をとても気に入ってくれて、ちょうど2000年だったこともあり、「記念に友人に配りたいから同じ物を2000枚作ってくれ」と頼まれました。

・フランク・ゲーリーからサインを戴いた時は、子供の教育に関わる活動を通じての人脈が役立ちました。ゲーリー氏の妹さんが都市計画を教材とした教育方法の研究と実践をされていて、何度かご一緒したことがあったので彼女を通じてお願いしました。サインと共に「enjoy!」と書かれていたのが印象に残っています。

−最近は海外でも「オリガミック・アーキテクチャー(折り紙建築)」としてかなり人気があるようですね。
・海外のワークショップでは、はじめはみんな、なんでもない一枚の紙からこんな立体ができるということに驚くようですが、是非自分も作ってみたいと言ってくれる人が大勢います。カタコトの英語でしか説明出来ないのですが、「ものづくりの楽しさ」や「伝えたい気持ち」は言葉を超えて伝わっているように感じています。

−地元の新潟で活動をはじめられたきっかけは?
・家庭の事情で東京から新潟にUターンしたのですが、東京に比べると人も情報もイベントも少なくて文化的な刺激に乏しいことにショックを受けました。自分のできることで何か地域に貢献できればと考えて、建築学会の「親と子の建築講座」を新潟でも開催していだく様に働きかけました。言い出しっぺの常として何年か後には講師もやらされる羽目になってしまいました。

・新潟支所の「親と子の建築講座」は年3回開催されるのですが2回は地元の方が講師を務めています。あと1回は地元以外から講師をお招きして、大人にとっても子どもにとっても文化的な交流ができるようにしています。

−「建築と子供たちネットワークにいがた」のことを教えてください。
・活動しているメンバーは現在のところ約20名で、「建築」を共通のキーワードにして集まっていますが、メンバーの職業は設計士をはじめ工業高校の教員、市役所職員、建設会社社員、大学の先生など様ざまです。さきほどお話しした「親と子の建築講座」には全面的に協力しています。ネットワークで子どもを対象にしたワークショップを開いていて、ノウハウを蓄積し「親と子の建築講座」にも講師やアシスタントを派遣しています。

−お仕事と地域でのボランティア活動を両立していくコツは何ですか?
・無理をしないで、できる範囲のことをメンバーで分担して行うことだと思います。それが長続きさせるコツです。一人だけががんばってもだめで、みんなで何かを成し遂げることができたという達成感の共有を目指すようにしています。

−今後の活動予定をお聞かせください。
・僕は教育者ではありませんが、建築士・構造士という自分の立場で、得意なことを活かして一般の人や子供たちに建築のおもしろさやものづくりの楽しさを伝えていきたいと考えています。僕の場合、たまたま出会った「折り紙建築」や自ら開発した「ダンボールドーム建築」がそうで、どちらも一般の人が楽しく取り組みながら建築や構造のことを理解するのにとてもよい教材になると思っています。

・また、着物や布団や屏風に代表される日本の「折りたたむ」文化と「折り紙建築」や「ダンボールドーム」は相通じるものがあると考えています。ですから、この二つの教材は僕の中では同じなのです。これらの事を通して日本の文化の一端を海外に紹介できればいいなと思っています。

−最後にこのホームページを見ている方にメッセージをお願いします。
・これは僕自身が折り紙建築の師匠から教わったことでもあるのですが、「まねる」は「まなぶ」の始まりで語源は一緒なんだそうです。技を「まねる」ことで先人の知恵を吸収し、そこからどんどん新しいものを生み出していってください。それが「まなぶ」ことです。新たな折り紙建築の作品が生まれてくることも大いに期待しています。

−ありがとうございました。
インタビュアーより
今年(2001年)に入ってからだけでも既にワシントンD.C.とニューヨークでのワークショップを終えられ、秋にはセントルイスでのワークショップも予定されているとか。現在はニューヨークでの展示会も開催中(2001年9月2日まで)とアメリカでは大評判の折り紙建築士である木原さんは、お仕事で10年ほど東南アジア各国に駐在していたこともあるという国際派であると同時に、地域を愛し地元新潟での活動にも情熱を注いでいるという、スーパーお父さん建築士でした。ところがそのスーパーな口から語られる言葉は「無理をしないことが長続きのコツ」「できることからやればいい」「まねるはまなぶ。どんどんまねしてください」とどれもほっとすることばかり。一枚の紙から浮き出てくる芸術的な折り紙建築の作品だけでなく、温かい心と行動力、これを是非まねしていきたいですね。国内や海外ワークショップの様子などもまた別の機会にご紹介したいと思います。今後のご活躍が本当に楽しみです。

(インタビュアー:田代久美 2001年6月20日、都内にて)