はじめに
エネルギベースの音響指標である
C80を算出する際に注意すべき点は、「SN比を適切に判断し、直接音の開始位置を定められた方法で検出しているか」「時間分割とバンド分析を定められた手順でおこなっているか」の2点であると考えられる。ここでは、前者に関して考察する。
SN比と直接音検知の影響に関して
インパルス応答時間波形から指標値を算出するにあたっては、ISO3382-1のAnnex Aにおいて、“最初に立ち上がる位置で、最大値より-20dB以下で、且つ暗騒音よりも高い位置をインパルス応答の開始位置とする”と規定されている。しかし暗騒音の状況下では閾値の設定によっては直接音が正しく検知されず、
C80の算出結果に誤差が生じることが懸念される。
図1は、ホワイトノイズを指数減衰させた信号に、暗騒音としてホワイトノイズを付加したインパルス応答波形である。ここではSN比が30 dBとなるようなノイズを付加した例を示す。図2に直接音部分を拡大して示す。図中の破線は、最大値に対する閾値を示し、各閾値の破線を最初に超える点を直接音位置と検知することになる。
図1: 直接音検知時の閾値
図2: 直接音検知時の閾値(直接音部分の拡大図)
図3は、暗騒音と閾値を変化させて時の、直接音位置の検知結果を示している。暗騒音は波形の最大値と暗騒音の最大値で規定しているため、SN比を超える閾値では(例えばSN比30 dBでは閾値-35 dB以下)暗騒音位置を直接音位置と検知する結果となる。また解析に用いた波形の最大値は実際の直接音位置ではないため、閾値0dBでは実際の直接音位置からずれた結果となってる。図4に直接音位置周辺を拡大して示す。-20 dB以下かつ暗騒音レベルより大きい閾値では同じ位置(528 sample)を直接音位置と同定しているが、閾値が-20dBより大きい場合には数sampleずれる結果となっている。
図3: 直接音位置検知結果
図4: 直接音位置検知結果(528 sample 周辺)
この時、
C80の計算結果がどのように変化するかを図5に示す。SN比が40 dB以上で、かつ閾値を暗騒音より大きく設定した場合にほぼ同じ値となっている。閾値を暗騒音以下に設定した場合には直接音位置を正しく検知できず、
C80は1 dB以上の誤差が生じている。一方、閾値を-20dBより大きく設定した場合には直接音位置がずれてしまうものの、
C80の値自体はほとんど差が無い結果となった。これはホワイトノイズを元にインパルス応答を作成しており、波形の密度が一定であるため誤差が生じにくいと考えられる。またSN比が30 dB以下の場合には、閾値を-20 dBに設定して直接音位置を正しく検知していても、
C80値が小さい。これは暗騒音を積分することによる影響と考えられる。
この様に、閾値の設定の仕方や、暗騒音の大きさによっては、
C80の計算結果に影響を及ぼすことになる。
図5: 直接音位置検知結果
暗騒音の影響を除去する方法の一例
この暗騒音の影響を補正する手法の一つとして、積分時に暗騒音のエネルギを減じる方法がある。図6に、SN比 30 dBの応答について、補正有り無しの結果をSN比無限大の結果と比較して示す。閾値は-20 dBとしている。補正無しの場合は全帯域に渡って約1 dB値が小さくなるのに対し、補正を行うことでSN比無限大の結果とほぼ等しい結果が得られている。
図6: C80算出結果:暗騒音補正有無の比較