3. 土地・建物の購入における重要事項説明で注意すべき点

3) 建物に関すること

■建物の権利について

中古建物を購入する場合、登記簿により、契約相手の本人が建物の所有権を有しているか、抵当権や賃借権などが登記されていないか、しっかりと確認する必要があります。とくに、借家人がいるときには注意が必要です。

従来の建物賃貸借契約では、貸主が居住しなくてはならなくなったといった正当な事由がなければ、貸主から契約更新を拒否したり、解約を申し入れたりすることはできないとされてきました。 平成12年3月に「良質な賃貸住宅などの供給の促進に関する特別措置法」が施行されたことによって借地借家法が改正され、契約期間が満了すると、契約が更新されることなく確定的に終了する 定期借家制度が創設されました。借家人がいても定期借家契約であれば契約期間の満了とともに契約関係は確定的に終了しますが、それ以外の借家契約では借家人が保護され簡単に立ち退きを請求できません。

そのほか、抵当権など注意すべき事項があります。詳しくは、3.4土地に関することの土地(・建物)の権利について確認しておきたいこと、3.5契約関係に関することをお読みください。

■違反建築でないか? 既存不適格建築物でないか?

建物を建てる際には、設計段階で建築基準法や条例の規定などを満足しているか建築確認を行います。そして、工事が始まると中間検査、完成したときには完了検査を受け、検査済証が発行されます。 建物の中には完了検査を受けず、手続き的には未完成となっているものも存在します。そして、中には途中で設計変更して、床面積を増やしたり、間取りをよくするため耐震基準で必要な壁を作らなかったりと、 ルールを無視して建ててしまう場合もあるのです。このように、建てた時点で法律を満足していないものを違反建築または違法建築と呼びます。

違反建築は、建物性能上、危険な場合があります。また、大規模な修繕や増築、改修を行う場合に必要な建築確認の手続きができず、取り壊して建て替えないといけなかったりします。 建物を購入する際に完了検査の検査済証がなければ、このようなリスクを抱えることになるのです。また、銀行から融資を受ける場合にも検査済証が必要なことが多いので、まずは検査済証があることを確認しましょう。

建物を建てた時点で規定を満たしていても、その後に法律の改正があり、現在の規定では満足しなくなる場合もあります。このような建物は、既存不適格建築物と呼ばれます。 大規模な修繕や増築、改修を行う際に現行基準による建築確認の手続きが必要ですが、一定の範囲内で増築や改築が認められる緩和措置があります。しかし、敷地が道路に2m以上接していないなどの緩和措置が 及ばない場合には、一度取り壊してしまうと建て替えできなくなることがあります。

既存不適格建築物には、後述するアスベストや耐震性能に関するものについて、宅地建物取引業法(宅建業法)第35条で説明が義務付けられています。

参考ウェブサイト
住宅情報提供協議会:住まいの情報発信局 既存不適格建築物,
http://www.sumai-info.jp/futeki/index.html

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■増築されていないか? 構造の一部が異なっていないか?

増築された部分や、構造の一部が異なる種類(コンクリートブロック造など)となっている部分は注意が必要です。そのような部分は、耐震・耐風上の構造的弱点となる傾向があります。該当する場合は、 建築構造の専門家(構造に詳しい建築士など)の助言を受けたほうがよいでしょう。

また、増築する規模が小さければ建築確認の手続きが不要です。そのため、増築後に容積率などの基準を満足しなくなることが起こりえます。この場合も違反建築となり、前述のような問題が生じることになります。

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■雨漏りなどが生じていないか? シロアリの被害はないか? 過去に漏水があったことはないか?

建物の瑕疵(欠陥)は重要事項説明書に記載しなければならない項目となっています。宅建業法第40条では、宅地建物取引業者は引渡しの日から2年以内は、雨漏りやシロアリ被害、給排水設備の故障などの隠れた 瑕疵(欠陥)が見つかれば、費用を負担して修理する責任があると定めています。この責任を瑕疵担保責任と呼びます。契約によってはこの期間を延ばすことも可能です。

中古住宅を購入して2年たってからシロアリ被害が発覚しても、契約上の特約がなければ瑕疵担保責任を問うことができません。購入前に確認するとともに、購入後もしっかりとした調査を行った方がよいでしょう。なお、雨漏りすることなどを承知の上で購入した場合、隠れた瑕疵とはなりませんので、瑕疵担保責任を問うことはできません。

また、2000年4月1日に施行された住宅の品質確保と促進等に関する法律(品確法)では、新築住宅について、基本構造部分(住宅の構造耐力上主要な部分または雨水の浸入を防止する部分)の瑕疵担保責任を引き渡しの日から10年間と義務づけています。ここで、新築住宅とは、完成後1年未満かつ人が住んだことがないものをいいます。既存住宅についても性能表示制度があり、新築・既存住宅いずれも性能評価を受けていれば、その住宅にトラブルが起きた場合に指定住宅紛争処理機関が迅速・公正に対応してくれます。

加えて、2017年2月に既存住宅の建物状況調査(インスペクション)に関わる人材育成制度の創設と調査方法基準の整備がなされました。建物状況調査とは、構造耐力を担う部分や雨水の浸入を防ぐ部分の劣化・不具合を建築士(既存住宅状況調査技術者)が目視や計測等により調査するものです。

この建物状況調査の結果は次のことに役立ちます。

  • 状況を把握した上で売買等の取引ができ、トラブルが発生しにくくなる。
  • 購入後にリフォームやメンテナンスを行うときに調査結果が参考になる。
  • 既存住宅売買瑕疵保険に加入することができる(劣化・不具合がない等の条件あり)。

上記の既存住宅売買瑕疵保険は、住宅の構造耐力上主要な部分および雨水の浸入を防止する部分等について瑕疵が発見された場合に、修補費用等が支払われるものです。

2016年6月に宅建業法が改正され、2018年4月1日から宅地建物取引業者は、売主または購入希望者などに対して、建物状況調査の制度概要等について紹介することが求められています。また、建物状況調査を実施してから1年以内の調査結果は重要事項説明の対象となっており、宅地建物取引業者は調査対象部位ごとに劣化の有無などについて説明をすることが義務付けられています。

参考ウェブサイト
住宅瑕疵担保責任保険法人 住宅保証機構:「住宅の品質確保の促進等に関する法律」とは,
https://www.mamoris.jp/seinou/minasama/shiori6.html
公益財団法人 住宅リフォーム・紛争処理支援センター:中古住宅に入居したら、玄関ドアの隙間等様々な不具合が見つかった。売主の責任を求めたい,
http://www.chord.or.jp/case/6401.html
国土交通省:住まいのあんしん総合支援サイト,
http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/jutaku-kentiku.files/kashitanpocorner/index.html
国土交通省:住まいのあんしん総合支援サイト 既存住宅売買かし保険,
http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/jutaku-kentiku.files/kashitanpocorner/03-consumer-files/05-oldhouse-insurrance.html

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■過去に火災に遭ったことはないか?

前述のように、事故歴や災害歴は重要事項説明書に記載しなければならない項目となっています。この事故には火災が含まれます。火災に遭ったことがあれば、建物の構造的な安全性に心配があります。また、消火の際に大量の放水を受けていれば、その影響も考えられるでしょう。

■建物にアスベストを使用している恐れはないか?

アスベスト(石綿)は、屋根、壁、天井などで使われるスレートボードや鉄骨造建物の耐火被覆として過去に使用されていました。アスベストの粉じんを吸いこむと健康を損なう恐れがあるため、2006年2月に建築基準法が改正され、アスベスト建材の使用が禁止されました。

アスベスト建材が使われていても、通常の建物の使い方では粉じんが飛び散るリスクは低いと考えられます。しかし、リフォーム、増改築、解体工事の際には飛散防止のための措置が必要です。一般にアスベスト除去にはかなりの費用がかかります。

2006年3月には宅建業法施行規則が改正され、重要事項としてアスベストの使用有無の調査結果の記録があるかどうか説明することが義務付けられました。調査を義務付けているわけではなく、調査していなければ調査していないと告げられるということです。 もしわからないまま建物を購入し、後々に工事を行おうとしてアスベストの存在が発覚すれば、除去費用が必要になります。そのリスクを承知の上で建物の購入を判断する必要があります。

参考ウェブサイト 住宅情報提供協議会:住まいの情報発信局 住宅とアスベスト,
http://www.sumai-info.jp/asbestos/index.html
国土交通省:アスベスト問題への対応について,
http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/asubesuto/top.html

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■24時間換気設備がついていないが、シックハウス対策は大丈夫か?

高気密・高断熱化された住宅の普及で、建材や家具から放出されるホルムアルデヒドなどの揮発性化学物質による健康障害、いわゆるシックハウス症候群が問題になっています。2003年に建築基準法が改正され、24時間換気システムの設置が義務付けられました。しかし、それ以前に建てられた中古住宅では設置されていないことが多いでしょう。

時間とともに建材からの原因物質の放出は減りますが、新しく家具を購入した場合にはそこからの放出が考えられます。二重窓など気密性が高い場合には、窓をこまめに開ける、換気設備を取り付けるなど、注意が必要です。

参考ウェブサイト 住宅情報提供協議会:住まいの情報発信局 シックハウス対策,
http://www.sumai-info.jp/sick/
国土交通省:建築基準法に基づくシックハウス対策について,
http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/jutakukentiku_house_tk_000043.html

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■耐震診断を受けていないか? リフォームや改修を行ったか?

耐震基準は1981年(昭和56年)6月1日に大きく改正されました。これより前に建築確認を行って建てられた建物は耐震性に問題がある場合があります。政府・自治体は、安全性を確かめる耐震診断を受けることを勧めています。2006年に宅建業法施行規則が改正され、耐震診断の結果がある場合はその説明が義務化されました。しかし、アスベストの場合と同様に、耐震診断そのものが義務付けられているわけではないので、注意が必要です。

多くの自治体において、診断士を派遣するなど、無料で耐震診断を行う制度があります。しかし、購入後に耐震性がないことがわかり、補強に多額の費用がかかったのではしかたがありません。耐震性が不明な場合は、購入前に建築構造の専門家(構造に詳しい建築士など)に相談したほうがよいでしょう。信頼できる専門家が分からない場合はお住まいの地方自治体や日本建築士会連合会支部などに相談しましょう。なお、耐震診断結果が悪くても、その後に耐震改修を行って安全性が確認できていれば大丈夫といえます。ここで、耐震改修と単なるリフォームは異なりますので、注意してください。

また、1981年6月1日以降に建てられた建物でも、リフォームで大きな間取りを確保するため耐力壁を取り払ったり、外周の壁に大きな窓を作ったりすると耐震性が著しく落ちることがあります。比較的新しい建物でも、リフォームの有無を確認し、耐震性に影響するような工事を行っていないか確認するとよいでしょう。

参考ウェブサイト 住宅情報提供協議会:住まいの情報発信局 地震に強い住宅,
http://www.sumai-info.jp/taishin/index.html
一般財団法人 日本建築防災協会:耐震支援ポータルサイト,
http://www.kenchiku-bosai.or.jp/seismic/
公益社団法人 日本建築士会連合会:建築士会の「建築相談窓口」設置状況,
http://www.kenchikushikai.or.jp/about-our-society/sodanmadoguchi.html
公益社団法人 日本建築士会連合会:ホームページでの専攻建築士検索,
http://www.kenchikushikai.or.jp/senko-new/search_in_the_hp.html
上記ページのバナー「地域の専攻建築士を探す」のリンク先、専攻建築士の検索
https://aba-svc.jp/senkou-search/index.html

■設計住宅性能評価書はあるが、建設住宅評価書は取得しているか?

住宅性能表示制度は住宅の品質確保と促進等に関する法律(品確法)に基づく制度で、様々な住宅の性能をわかりやすく表示するためのものです。評価機関に申し込みを行い、住宅性能評価を行ってもらいます。性能評価は設計評価と建設評価の2つがあります。まず、設計段階で「設計住宅性能評価」を申請し、図面によるチェックを行います。ここでは、求められている性能どおりに設計がなされているかチェックし、設計住宅性能評価書が交付されます。次に、設計評価後さらに建設住宅性能評価を受ける場合は、建築工事の着手に先立ち「建設住宅性能評価」を申請する必要があります。建設評価は建設工事・完成段階の検査で、評価を受けた設計どおりに工事が進められているかチェックされます。

建設住宅性能評価書が交付された住宅は、その性能が明示されるだけではなく以下の3つのメリットがあります。

  • ①指定住宅紛争処理機関に紛争処理を申請し、迅速な対応を受けることができる。
  • ②民間金融機関による性能表示住宅への住宅ローン優遇を受けることができる。
  • ③評価された耐震性能の等級に応じ地震保険料の割引を受けることができる。

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ここで、上記は設計住宅性能評価書だけではだめで、建設住宅性能評価書が必要なことに注意してください(住宅ローン優遇については、設計住宅性能評価書だけでOKの金融機関もあります)。

戸建の注文住宅を建てるときに、きちんと設計されているかチェックできればそれでよいと注文主が判断し、次のステップである建設住宅性能評価を受けない場合があります。また、建売住宅でも売主が建設住宅性能評価を受けない場合もありえます。建設住宅性能評価書があればより信頼でき、上記のメリットと施工不良のチェック効果がありますので、購入を検討する物件にあるのかどうか、しっかりと確認したほうがよいでしょう。

参考ウェブサイト 一般社団法人住宅性能評価・表示協会(評価協会):住宅性能表示制度,
http://www.hyoukakyoukai.or.jp/shohisha/menu.html

コラム1 「その他の建物の購入に関するトラブルや購入後の不便」img

建物の購入に関するトラブルや購入後の不便には、重要事項説明書の項目として法律などで明文化されていないものがさまざまあります。ここでは3.3節で体系的に説明できなかったものについて、いくつか紹介します。

まず、購入に関するトラブルですが、建売住宅ではパンフレットと実際の図面に相違はないか、パンフレットにある窓が現実にその位置に付いているかなどについてもよく確認したほうがよいでしょう。建売住宅では、よく似た住戸が並んでいても1棟1棟違っていて、パンフレットと実際の建物に相違がある場合があります。パンフレットを鵜呑みにせず、図面または現地などで確認を行いましょう。  

次に、購入後の不便に関するものですが、近所の建物や歩道橋から寝室がよく見えてしまう場合があります。もちろん、カーテンなどで目隠しすることで対応はできますが、気になる場合には住んでいるつもりになって色々と確認をしたほうがよいでしょう。

コラム2 「介護や介助が必要になっても快適に住むためには」img

将来のライフステージの変化にも注意を払いましょう。介護や介助が必要になるなど、身体状況の変化があっても快適に住むためには、ユニバーサルデザインの考え方に基づいた家であることが望まれます。具体例を挙げると、廊下の幅や形状、風呂・トイレ・寝室の位置や形状、キッチンの計画、車いすの動線計画などですが、全体的な視野に立って計画することが大切です。

住宅のプランの可変性が低いことや構造上の制約から、継続的に住むことが困難なことがあります。例えば、階段昇降機やホームエレベータなどの設備が後で増設できない場合などです。

支援・介護が必要な方、または近々必要となることが予測されている方は専門の建築士に相談する他(4章のコラム「建築士選びのポイント」を参照)、地域包括支援センター、地域の居宅介護支援事業所もしくは介護支援専門員(ケアマネジャー)にお問い合わせをしていただくとよいでしょう。