book書籍「マンションの選び方、育て方」 長く暮らすためのマンションの選び方・育て方
日本建築学会 編
彰国社 刊
2008年8月 出版
四六・192頁・定価1,890円(本体1,800円)
ISBN 978-4-395-01210-7 C3052
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情報事業部会では、8月に刊行した「長く暮らすためのマンションの選び方・育て方」をテーマに、市民向けセミナーを行っています。第2回セミナーは詳細が決まり次第、追ってご案内申し上げます。

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〒108-8414
東京都港区芝5-26-20
(社)日本建築学会事務局 
セミナー係 川田昭朗

Tel. 03-3456-2051,
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E-Mail: kawata@aij.or.jp

新築マンションを選ぶときには > I.住まいの場所を選ぶ > 3.周りの環境

新築マンションを選ぶときには

3.周りの環境

1)住まいの周りには何がありますか?

 住まいは、その周りに何があるかによって、住み心地が大きく左右されます。たとえば近くに 幹線道路があれば便利ですが、反面、騒音、振動、排気ガスなどによって、住み心地が悪くなります。 このように、住み心地を左右する、周りの環境を相隣環境(そうりんかんきょう)と呼びます。相隣環境について、重要な観点は次の通りです。

  • 騒音、振動、排気ガス、夜間にまぶしい光を発生させるものはないでしょうか、鉄道、幹線道路、工場、配送センターなどが 問題を起こすことがあります。細い道でも抜け道になっている場合には要注意です。公園、学校、娯楽施設なども騒音源になる 可能性があります。自動車や人の出入りが頻繁な施設、たとえば大きなショッピングセンターなどは、便利ですが騒音などに注意する 必要があります。小規模なお店でも24時間営業のものは、昼間は気にならなくても、夜間の音や照明が気になることがあります。
  • 大きな日影を落とすものや、眺望あるいは通風を遮るものはないでしょうか。高層建築物、高架の鉄道や道路が問題になりがちです。
  • 特に高層ビルの周囲では、激しい風が起こることがあります。これをビル風と呼びます。
  • 覗かれる心配はないでしょうか。高層建築物、高架の鉄道や道路に加えて、歩道橋なども問題になることがあります。

 相隣環境を確認するには、現地を訪問することが基本です。ただし、訪問は休日の昼間になりがちですので、 それだけではわからないこともあります。 休日には工場、配送センター、学校などは休業日ですから、 平日より騒音、振動、排気ガスが少なくなりがちです。また、配送センターや24時間営業のお店など、 夜に問題となるものについてもわかりません。 鉄道や道路の影響は、交通量に左右されます。通勤交通が多い場所では 平日の朝夕、仕事の交通が多い場所では平日の日中に交通量のピークがあります。さらに配送センターでは 夜間に交通量のピークがある場合もあります。

 日影は季節によって変わります。日当たりがあまり欲しくない夏は太陽が高い所にあるので影は短めですが、 日当たりが欲しい冬には影が長くなります。冬至に午前10 時から午後2時まで>4時間の日当たりを確保するには、 例えば東京では、南にある建物がその高さの1.9倍以上はなれていることが必要です(図をご覧ください)。 この倍率は北半球では太陽が低い北の地方にゆくほど大きくなります。鹿児島では1.61倍、札幌では2.72倍です(図をご覧ください)。

画像:冬至に午前10 時から午後2時まで4時間の日当たりを確保するために必要な建物の南北間隔

 一回の訪問だけで問題がないと決めつけないことが大切です。時間や曜日を変えて訪問する、周辺の住宅地図を見て 問題になりそうなものがないかどうかを確認する、といったことが大切です。

道路交通量や抜け道を調べる

  • 道路交通センサス
    • 国道や県道などの幹線道路について、5年に一度行われる総合的な調査で、交通量を調べています。 そのマンションがある都道府県や市区町村に問い合わせれば、結果を知ることができます。ただし、 地図などで解りやすく結果を整理しているところも、そうでないところもありますので、活用には工夫が必要です。 解りやすい例としては、高知県庁のウェブサイト「高知県の道路」があります。
  • 警視庁や道府県警察本部の交通量調査
    • たとえば東京都では警視庁「警視庁ウェブサイト 交通量統計表の概要について」に説明があり、 警視庁、都庁や都立図書館で結果を閲覧できます。ただし、ウェブサイトには公開されていません。
  • 抜け道マップ
    • ウェブサイトや市販の抜け道マップもありますが、残念ながら、包括的な情報はなかなかありません。 実際にそのマンションの場所に曜日、時間を変えて訪問して、道路交通量が多くないかを調べることが確実です。

2)住まいの周りに将来、何ができる可能性がありますか?

 南側に広い空き地があって日当たり、眺望、通風に恵まれたマンションの高層階の住戸を買ったら、 その空き地にもっと高いマンションが建ったという話は、珍しいことではありません。購入時に問題となるものがなくても 、将来、できるかもしれません。住まいを購入する時には、住み心地を左右する周りの環境について、将来のことにも気配り する必要があります。このような周りの環境のことを、相隣環境(相隣環境)と呼びます。

 都市内のそれぞれの場所につくることができるものは、国や地方公共団体が決める都市計画によって定められています。 都市計画は市区町村の役所、役場で、都市計画を詳しく書き込んだ地図(都市計画図)を見て調べることができるので、必ず確認しましょう。 市区町村によっては、都市計画図をウェブサイトで公開しているところもあります。ただし、制度が複雑ですので、この項の最後に紹介した 「情報リンク」などで、あらかじめだいたいの仕組みを知っておくことが大切です。特に次の点に注意してください。

都市計画のうち、相隣環境からみて重要なのは

  • 用途規制(建物用途を定める)
  • 形態規制(建物の高さや形を定める)
  • 道路・鉄道・公園などの都市計画施設

です。

用途規制

 用途規制は、都市計画法という法律による「地域地区」指定を中心として、建ててよい用途、建ててはいけない用途が決められています。

「地域地区」指定

 「地域地区」指定には様々な種類がありますが、相隣環境の観点から大切なものは、「用途地域」指定です。 例えば次の場合には、相隣環境が問題になる可能性があります。

駅や幹線道路に近い便利な場所
周囲には「商業地域」など、住宅以外にも大規模ショッピングセンターや 遊戯施設・風俗施設なども建てられる用途地域が指定されている場合が多くあります。
工場跡地
周囲では、「工業地域」や「準工業地域」など、住居以外に工場、倉庫、流通センターなどが建てられる用途地域が指定されている場合が多くあります。

 形態規制は、主要なものとして、図に示す4種類があります。採光、通風の保護を目的とした形態規制(道路斜線制限、天空率など) は比較的手厚いのですが、日当たりの保護を目的とした形態規制(日影規制、北側斜線制限など)は適用されない場所も多く、 眺望はふつう保護されません。ビル風も、高層マンションが戸建て住宅に及ぼしたビル風に対して損害賠償が認められた事例はありますが、 直接的に形態規制によっては規制されません。たとえば横須賀市の「特定建築等行為に係る手続き及び紛争の調整に関する条例」の解説では、 市役所が調整対象とする紛争には「プライバシー・眺望権の侵害・ビル風による風害等は含まない」としています。

画像:日影規制

 形態規制は、駅の近くや幹線道路沿いなど便利な場所ほど、建物の高さの上限がない、日影規制がないなど、 緩やかであるのがふつうです。このため、後に周囲に高い建物が建って相隣環境が悪化する可能性があります。

・形態規制によって、自分の住まいの正面、特に南側に、どのような形態の建物が建つ可能性があるのかを見極めて、 納得した上で選びましょう。自分の住まいの正面が大規模な民有地である場合には、特に注意が必要です。形態規制の仕組みのために、 大規模な土地ほど高い建物が建てやすくなります。また誰でも使える空地などを提供する見返りに、都市計画による規制の緩和が認められ、 大規模な建物が建てられる制度があり、大規模な民有地に適用されることが多いのです。

・周りに将来建設される幹線道路の位置を確認しましょう。特に、マンションの近隣に孤立して交通量が少ないのに、 幅が広い道路がある場合には、将来の幹線道路の一部である場合が多く、完成すると便利になりますが、交通量が増えるので注意が必要です。 将来建設される予定の幹線道路の位置は、「都市計画道路」という名称で都市計画に詳しく定められています。これを市区町村の役所、 役場で地図を見て確認したところ、将来に幹線道路が建設される予定がある場合には、完成時期の見通しを窓口に質問するとよいでしょう。 建設事業が行われている道路や、優先整備路線と呼ばれる今後優先的に建設事業を行う予定の道路については、完成予定時期を知ることができます。 また、幹線道路ができると、それに合わせて周りの用途規制や形態規制が変更されることがよくあります。これは将来の事柄なので予めすべてを 知ることはできませんが、だいたいの方針が定められていることがあるので、市区町村の役所、役場の都市計画の窓口に問い合わせてください。 特に注意すべきなのは、次の場合です。

特に注意すべき場合

マンションの南隣りの敷地が、新しい幹線道路に接することになる場合
その敷地の用途規制や形態規制が緩められ、高層建築物や、騒音を発生する建築物が建てられる可能性があります。
マンションが直接に新しい幹線道路に接することになる場合
道路の騒音や振動がマンションに及ぶ可能性があります。また、マンションの敷地の一部が新しい幹線道路に掛かる時には、 敷地面積が減ることで、問題が生じることがあります。

 ふつう便利な場所は相隣環境に問題が生じることが多く、これを完全に避けることは難しいので、便利さと相隣環境を天秤にかけて 判断する必要があります。便利さを重視したい場合には、防音性の高いサッシュを使う、目隠しを設置するなど、相隣環境の問題を 建物の性能でカバーできるかどうかも検討しましょう。

  • 都市計画の仕組みについて調べる
    • 国土交通省「みんなで進めるまちづくりの話」
    • 目黒区役所「建築のてびき」
      • 上記の国土交通省のウェブサイトを読んだ後で、都市計画による規制の内容を知るのに役立ちます。ただし、 市区町村毎に規制の詳しい内容には違いがあるので、マンションが立地する場所の都市計画の詳しい内容は、 その市区町村のウェブサイトや窓口で調べましょう。
      • http://www.city.meguro.tokyo.jp/kenchiku/tebiki/
  • 用途地域の仕組みについて調べる
  • ビル風の損害賠償が認められた事例