1.経年劣化への備え,維持管理のしやすさ
1)マンションはどのように劣化するのですか?
○物理的劣化
マンションは、鉄やコンクリートを筆頭に実に多くの種類の素材が用いられています。単体で使われているものもあれば、複数の素材を複合して用いられることもあります。ほとんど総ての材料が、年月に伴い、美しさを失ったり、変形したり、強さを失ったりしますが、その劣化の速さは材料すべてが同じスピードということはありません。理屈をいえば、程度の差こそあれ、完成した直後からすべての材料で劣化が始まるということになり、これを止めることはできません。
しかし、建物の想定される耐用年数のなかで、実用的にはこの劣化の速さを止める、あるいは遅らすことができます。設計者は施主の要望に応じて、対策を講じていますが、それでも劣化が充分止まらないものや、劣化を遅らす処置が不十分な場合もあります。
建物の構造体については、通常の使用の範囲では支障がないように設計されていますが、仮に50年から100年の使用を前提に設計されていても、コンクリートの充填が十分でない場合や、鉄骨の錆び止め処置が不完全な場合はその寿命は大幅に短くなってしまいます。これらの不具合は通常見つけることが難しく、亀裂が発生したり、錆が出てからでないと分からないようです。これらの点検は専門的な技術が必要なので、定期的な点検計画を立て、その都度状況を記録し、早め早めに処置をすれば、相当長期間にわたって建物を健全な状態で使うことができるでしょう。
○機能的劣化
新しく建設されたマンションには最新の設備が設置されています。共用部分では、エレベーターや防犯システム、住戸室内ではシステムキッチンや給湯器など、建設されたときは機能的で使いやすいものが設置されています。
しかし、これらの設備は何年もしないうちに高機能の新製品が次々に開発されていきます。例えば、防犯システムではカメラの高解像度化や高感度化で夜間でもはっきり写るようになったり、ブラウン管の白黒モニターから液晶のカラーモニター、記録方式もアナログビデオテープからデジタルハードディスクへなどと性能が次々と向上していきます。当初に設置したものは、やはり機能的に劣化していくといわざるを得ません。
これらは、設備更新時期やリース期間終了、大規模修繕などの時に最新設備にグレードアップが可能なものもありますので、管理組合で議論し改善していくこととなります。
○社会的劣化
社会的劣化は、どちらかといえば建物や設備の劣化ではなく、人の生活様式や居住ニーズの変化によるものといえます。
例えば、一昔前は家族の人数が多かったことで部屋の広さよりも部屋数の多さが重視されていました。同じ専有面積の住宅では、2LDKよりも3LDKや4DKが好まれるなどです。同様に、中古で売ろうと思っても、部屋数が少ないものはなかなか買い手がつかないこともありました。
しかし最近では、住戸の専有面積が広くなってきているとともに、少子化の進行で部屋数の多さよりも一つ一つの部屋の広さが求められています。今後はさらに夫婦のみ世帯や単身世帯、高齢者のみ世帯が増加し、広い家でも間取りはワンルームや2LDKにして、各部屋がゆったりと遣いやすいタイプが好まれるようになるかもしれません。
また、同様に客間や和室のあり方、利用の仕方なども時代の流れとともに変化しました。これらは、ニーズにあわせてリフォームで解決できる場合もあります。例えば日本間を洋間に変更したり、狭い二部屋を一つの部屋にするなどの模様替えです。
ただし、部屋を広げようと思っても、構造躯体となるコンクリートの間仕切壁はマンションの「共用部分」ですから、個人で勝手に手を加えることは絶対にやってはいけません(建物の構造に影響しない壁のリフォーム工事は可能です)。
さらに、住戸内のリフォームは、小さな工事でも周辺の住戸に大きな影響を及ぼしたり、管理規約や法律違反となる場合があります。例えば、和室の畳や洋間の絨毯をフローリングに変更する場合は、確実に下階への騒音や振動が大きくなります。また、構造的にシステムキッチンや風呂場、トイレなどの水回りの位置を変えることは困難(例えば排水管を長くしたため排水不良となったり、下階に排水音が大きく響くようになったなど。)ですので、リフォームを計画するときには管理規約や使用細則などを十分確認するとともに管理組合に相談すること、上下左右の住戸の承諾を取っておくことなどが必要です。
◆情報リンク
- ・劣化のことをよく知る
- 財団法人マンション管理センター Q&Aがあります
- http://www.mankan.or.jp/
- ・修繕・改修のことをよく知る
- マンション再生協議会 Q&Aがあります。
- http://www.manshon.jp/syuzen/s_qa.html
2)マンションの維持保全は誰がやるのですか?
分譲マンションは購入者である区分所有者の私有財産ですので、その「維持管理」は区分所有者が管理組合を構成して行うこととなります。
この場合、住戸の数だけ所有者がいるため、各自の認識が揃っていないと維持保全がうまくいきません。ところが、住宅の利用の仕方(居住、賃貸)や考え方、知識、財産的余裕などそれぞれ違いますので、合意形成がなかなか難しいというのが現実です。
一昔前は、マンションは仮住まいという住意識や管理に関する情報、ノウハウが不足していたことで維持保全がおろそかにされていたマンションも少なくありませんでした。
しかし、最近は書籍やインターネット、各種セミナーなどでいつでも誰でも情報を入手することができますし、社会的にも管理のノウハウが蓄積されてきたといえます。また、永住思考の区分所有者が多くなっていますので、マンションの維持保全への関心が格段に高くなっていることは間違いありません。
この維持保全で特に重要なことは、「点検」、「診断」、「メンテナンス」です。
○点検
建物の点検は、管理組合が自ら行う「自主点検」、管理会社などが行う「日常点検、定期点検」、専門業者がなど行う「法定点検」などがあります。
- ・管理組合が行う点検
- 建物の目に見える部分や利用している部分の不具合は、居住している人が気がつきます。例えば、オートロックドアの調子が悪いとか、あそこの電球が切れている、ここの植木が枯れているなどです。これらは、情報や苦情として理事会や管理人、管理会社などに伝わりますので速やかな対応は可能です。しかし、外壁に細いひびが入っていたり、タイルが落下しそうなどということにはあまり気がつきません。そこで、理事会が中心となって定期的にマンションの点検を行います。理事会の中に専門家がいる場合は別ですが、ほとんどの場合は、目で見てわかる範囲で不具合をチェックします。
- ・管理会社が行う点検
- 管理会社に点検を委託している場合は、その契約内容に従って管理会社が点検を行います。管理人が派遣されている場合は、日常の管理業務を通じて建物の不具合をチェックしたり、定期的に専門技術を持った社員が来訪して機械設備や建物を点検します。
- ・専門業者が行う点検
- エレベーターや換気設備、消防設備、給水設備などは法律で定期的に点検することが定められています。これらは、管理会社で専門資格を持った者や専門の業者が実施し、役所などに報告することになります。
この場合、法律に定められているからといって自動的に役所や業者がやってくれるということはありません。あくまでも、点検・報告義務は管理組合にありますので、いつ、どのような点検が必要で、誰にやってもらうかなどもすべて決めなければなりません。
○診断
点検によって建物や設備に不具合が見つかった場合は、その対処のために専門家に診断を依頼します。例えば、漏水が見つかった場合に、どこから、どうやって水が入り込んでくるのか、そしてその不具合をどうやって改善すればいいのかなどを診断してもらいます。
点検は不具合の有無を確認するのが目的ですので、結果的に不具合がなくても「点検」そのものは必要ですが、「診断」は、不具合が発見されてから実施します。したがって、あらかじめ診断時期を決めておくことはできませんし、どの程度の診断が必要なのか、どのぐらいの費用がかかるのかは、その事象が発生してからでないとわかりません。
○メンテナンス
診断した結果、不具合への対処方法が決まりましたら修繕工事を行います。緊急な工事が必要なのか、あるいは定期的に行う大規模修繕のときに同時に実施するのかを決めます。
このあたりの判断も、不具合の内容や次回の大規模修繕工事の時期、費用などで大きな違いが出てきますので、理事会がよく理解したうえ、管理組合で合意形成をすすめていきます。
☆点検や診断への立会い
点検や診断を業者任せにせずに管理組合も立ち会ったり、きちんと報告を受け、不具合への対応を先延ばししないことが肝要です。
◆情報リンク
- ・点検、診断、メンテナンス(修繕)のことをよく知る
- 財団法人マンション管理センター Q&Aがあります
- http://www.mankan.or.jp/
- ・管理組合の自主点検をよく知る
- 独立行政法人住宅金融支援機構 管理組合でできるチェックポイントがあります。
- http://www.jhf.go.jp/jumap/mansion/kyoyu/marugoto02.html
3)経年劣化で影響を受ける性能はなんですか?
鉄筋コンクリート構造の建物は、アルカリ性のコンクリートが空気中の酸素によって中性化され、劣化していきます。これによりひび割れが生じ、水分が鉄筋にまで及ぶと鉄筋がサビて建物の性能が低下します。なお、これらは構造体の表面に施す仕上げの種類や施工時の気候・天気、打設状況によって大きく変わるなど、総ての建物で状況は異なります。
標題にある「経年劣化」と一口にいっても、状況は多彩です。ですから、何年経過したから性能が何%低下すると言うことはできませんが、確実に性能は「経年」と共に劣化していきます。マンションは、建物の耐用年数は数十年と長いのですが、決して「無限」ではないことを十分理解しておく必要があります。
○耐震性能
耐震性能は、通常の数十年という使用期間内で、材料の経年劣化によって法律で要求する性能を下回ることがないように余裕を持って設計されているはずですので、正しく施工されている限り安全と考えて良いでしょう。ただ、近年の構造計算の手法は、建物の性能を細かく計算できるので、余裕のないぎりぎりの設計が可能になっており、経年劣化に対するゆとりが少なくなっていることも事実です。
できあがった建物を見ただけでは、どの程度の耐震性能があるのかを判断することはできませんが、「耐震性能」は大規模震災時のときに、まさに「人の命」を左右することとなります。マンションを購入するときは、構造や耐震性能についてもできる限りの情報収集と正しい理解を深めておくことが肝要です。
○遮音性能
通常、音の問題は上下階が中心に考えられ、床の遮音性能などが注目されがちです。確かに日常の生活音が上下階で影響するのは事実ですし、もともと畳や絨毯だったのをフローリングにリフォームしたことが原因で大きなトラブルや訴訟、場合によっては死傷事件になることも少なくありません。音の感じ方には個人差がありますが、毎日の生活に大きく影響しますので、遮音性能は大きなポイントです。
一方、サッシ窓や玄関ドアなどの開口部からも騒音が進入します。上階からの騒音だと思っていたら、実はぜんぜん違うところに原因があったということもあります。
サッシ窓や玄関ドアは、経年や日常の開閉による磨耗などで劣化が進みます。隙間ができてしまうと、遮音性能が低下し、外からの音が入ってくるだけでなく、室内の音も外に漏れます。また、断熱性能(気密性能)も低下し光熱費に大きく影響します。
サッシやドアは、住戸の向きや風雨の当たり方、利用の仕方などによって傷み方が異なりますが、修繕するときは全戸同一に実施したほうが割安となります。また、各戸でバラバラなデザインや材質のものに交換しないようルールを定めておく必要があります。
○防水性能
コンクリートの建物にとって、最も強敵となるのは雨や雪です。防水性能が劣化しますと、雨水がコンクリートに浸入し、鉄筋のサビや室内への漏水、外壁タイルの剥離、コンクリートの破片や塊の落下などの事故が起こります。実際に、外壁のコンクリートの塊が落ちてきて死傷者が出た事故もあり、この場合は管理組合の維持保全が不適切であったとして責任を負うことになります。
自由に出入りできる屋上であれば、日ごろから傷み具合を目にすることができますが、立ち入れない構造であっても、定期的に確認するための管理組合の点検は重要な意味を持ちます。また、屋上だけでなく、雨どいが詰まった場合は、雨水が逆流し、ベランダを通じて室内に水が流れ込むこともあります。したがって、雨の日の点検も必要です。
なお、万が一、室内への漏水が生じた場合であっても、被害のあった住戸が修繕するわけではなく、管理組合が費用を負担して修繕します。ただし、禁止されているのにベランダでガーデニングをしたために漏水したような場合は、その原因となった者が負担することになります。
○断熱性能
マンションは木造戸建住宅に比べれば断熱性能は優れていますが、仕上げのグレードの違いや、経年とともに劣化の影響を受けます。例えば、最上階は太陽の炎熱をまともに受けますので、屋上の断熱性能の良し悪しが影響します。さらに、窓のサッシガラスがペアガラスのような断熱性能の高いものであれば、夏の外からの熱を防ぎますし、冬の室内の温かさを保つこともできます。
また、遮音性能でも触れましたが、玄関ドアに隙間があれば、それだけで熱効率がわるくなります。特に古い団地住宅などで見られるスチール1枚のプレスドアや、ドアに新聞の受け口がついているデザインのものは十分な断熱性能は確保できません。
これらは、大規模修繕時などに改善工事を行うことで、断熱性能を向上させることもできます。
◆情報リンク
- ・耐震性能のことをよく知る
- 国土交通省 Q&Aがあります
- http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha05/07/071208_2_.html
・改修によるマンションの性能向上を知る- 国土交通省 改修によるマンションの再生マニュアルがあります
- http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha04/07/070603_.html
・修繕・改修のことをよく知る- マンション再生協議会 Q&Aや事例があります。
- http://www.manshon.jp/syuzen/s_qa.html
- http://www.manshon.jp/syuzen/s_jirei_01.html
4)設備の維持管理で気をつけることはありますか?
最近は、タワー型超高層マンションも増えてきました。その一方で、戸数が少ない小規模マンションも多く建設されています。この二つの違いは、単に戸数の問題だけではなく、必要となる設備の数や規模が大きく異なります。
例えば、エレベーターが何台もあればその数だけメンテナンスに気をつけなければなりませんし、消防設備、防犯設備、給排水設備なども性能や機能、台数、維持管理に必要な内容などがすべて異なります。
逆に、エレベーターが1台しかないと、故障したときやメンテナンスのときに利用できず、高層階の入居者や高齢者は大変です。
○エレベーター
エレベーターについては法律によって点検・報告が義務付けられているので、制度上は安全なはずです。しかし、近年起こったエレベーターの死傷事故などに見られるとおり、点検やメンテナンスがズサンであっては点検制度そのものの意味がなくなるので、外部の報告だけに頼らないで、住民が関心を持って管理することが大切です。エレベーターに乗っていて少しでも違和感を感じたら、速やかに理事会や管理会社に報告するよう気をつけておきましょう。
○給排水設備
最近では水洗トイレに物を詰まらせる事故は少なくなりましたが、誤っておむつなどを流してしまって漏水となった事例もあります。また、設置が許可されていないのにディスポーザーを取り付けて排水不良を引き起こした事例もあります。
一方、飲料水の管理には意外と注意が払われていないようです。浄水の給水タンクは定期的な点検と清掃が義務付けられていますが、異物の混入や動物の侵入によって汚染された例は数多く報告されています。
また、直結増圧のポンプを利用している場合は、ポンプの故障や不具合はすぐに断水につながりますので、定期的な点検と確実なメンテナンスが必要です。
これらの管理は一般に管理会社に委託することが多いのですが、あまり任せ放しにしないで、管理組合などできちんと報告を受けることを習慣付けたいものです。
○消防設備
消防設備は、出番がない方が望ましいのですが、いざ火災が発生したときに慌ててしまい、消火器がどこにあるのかや、使い方がわからなかったら意味がありません。ましてや、消防設備が「故障していた」などということは絶対に許されることではありません。
万が一にそなえて、日ごろの点検と訓練が重要です。
消防訓練は理事会が主催し、少しでも多くの居住者が参加することが望まれます。消防設備に対する理解を深めるとともに、この機会を活用し、住民同士がお互い顔をあわせてコミュニケーションを図ることも肝要です。
○防犯設備
最近は、ピッキング被害などの空き巣のほか、不審者の侵入により住民が直接被害に遭う事件(居直り強盗やマンション住民の後をつけて入り込む暴行事件など)も多く見られる恐い世の中になりました。こうした事件を少しでも少なくするために防犯設備を設置します。例えば、エントランスのオートロックや各所に監視カメラの設置です。
しかし、これらの設備はある程度の牽制効果は期待できますが、完全に犯罪を防ぐことはできません。また、「住民」なのか「不審者」なのかを判別できなければいくら立派な設備があっても役に立たないかもしれません。
設備の機械的なメンテナンスはもちろん重要なことですが、設備があることを過信するのではなく、日ごろの住民間の挨拶運動やコミュニケーションの向上が防犯対策として最も効果的であることも理解しておきましょう。また、暗いところの照明を明るくしたり、見通しが悪いところを改善することなども効果的です。
◆情報リンク
- ・維持管理のことをよく知る
- 財団法人マンション管理センター Q&Aがあります
- http://www.mankan.or.jp/
- ・修繕・改修のことをよく知る
- マンション再生協議会 Q&Aがあります。
- http://www.manshon.jp/syuzen/s_qa.ht