book書籍「マンションの選び方、育て方」 長く暮らすためのマンションの選び方・育て方
日本建築学会 編
彰国社 刊
2008年8月 出版
四六・192頁・定価1,890円(本体1,800円)
ISBN 978-4-395-01210-7 C3052
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情報事業部会では、8月に刊行した「長く暮らすためのマンションの選び方・育て方」をテーマに、市民向けセミナーを行っています。第2回セミナーは詳細が決まり次第、追ってご案内申し上げます。

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新築マンションを選ぶときには >II.建物性能を見極める > 9.さまざまな環境-光

新築マンションを選ぶときには

9.さまざまな環境-光

1)日当たりと方角で大切なことは?

 住まいの生活において,日当たりによって得られる効用としては,

  1. 光を採り入れることにより,住まいの中を明るくすることができ,照明用のエネルギーを節約できます。空からの光は北面の窓からも得ることができます。
  2. 冬においては,日当たりによる熱を利用し暖かくすることができ,暖房用のエネルギーを減らすことができます。日当たりは夏を除いて北面の窓では受けることはできません。
  3. 日が当たっている部分の湿度が下がり,乾燥することになるため,カビ・シロアリの発生や,木材が腐ることなどを防止することができます。
  4. 日光の中に含まれる紫外線の殺菌作用により日光消毒の効果が得られます。
  5. 同じく紫外線の中のドルノ線(健康線とも呼ばれる,波長:290~320nm)の働きによるビタミンDの形成作用があります。ビタミンDの効用は,カルシウムとリンの代謝を調節し,カルシウムとリンに対する腸の吸収を高め,骨への沈着を促進するものです。よってこのドルノ線の働きにより,結果として骨の変形と発育障害すなわちくる病を引き起こすことを防止することになります。
  6. 日当たりなど自然の光の変化によって,サーカディアンリズムと呼ばれる周期的な生体のリズムを整え,自律神経機能,睡眠-覚醒など生理機能を健全に保っているのです。光を受けることにより,日々のリズムがリセットされるため,特に東面の窓から朝の光を採り入れることには重要な役割があります。
  7. 日当たりによって住まい手にやすらぎと満足感などの心理的効果を与えています。
  8. ガーデニングなどで植物を生育させるには日当たりは不可欠です。

などが挙げられます。

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■朝の光―生体リズムを整える役割を果たす
一方,日当たりがもたらす悪影響としては,
  1. 夏においては,日当たりによる熱により温度が上昇し,冷房用のエネルギーを増えることになります。ただ夏においては太陽の高度が高くなるために,日射によって入ってくる熱は,南面の窓は,東面,西面より少なくなります。特に西面の窓への日射は,午後の気温の上昇時と重なるため,厳しいものに感じられることになります。このような場合にはカーテンやブラインドなどで対応する必要があります。
  2. 紫外線の健康への悪影響としては,日焼け,皮膚の老化・発癌作用,結膜炎・角膜炎等眼への害作用などがあります。
  3. 日当たりによって,内装材料や家具などが傷んだり色あせたりします。特に東面,西面の窓からは室奥まで日が入るので注意が必要です。

などです。

 

 これらの日当たりの効用や悪影響を十分知った上で,住まいの選定,住まいの計画を行うべきだと思います。欧米では家具などの損傷を嫌い,日当たり避け日当たりのない住宅に積極的に住む人もいます。また北側の窓からの景色は,日光を受けている他の建物の明るい面を眺められると視覚的なメリットもあります。ただ日本人にとっての日当たりとは,日本という国名,日の丸という国旗などのように伝統的には信仰にもつながるほど重要なものであり,現在も日本人の多くが,住宅の購入時に,日当たりを要求するのは,このような心のよりどころとしての意味があるのかも知れません。

 1日のうちで,窓などの建物の重要な部分に日光の当たる時間を日照時間といいます。第2次大戦前の当学会の研究から始まって,1950年代に公営住宅や公団住宅の設計基準に採用されたこともあり,日照時間の目安として,冬至日に4時間というのが一般に定着しました。いくつかの社会調査的な研究でもその妥当性が示されています。ただ1970年代以降,都市の建物の密度が高くなるに伴って,これらの基準は大幅に緩められ,現在では,日当たりのない住宅の建設も可能になっています。特に都心部では,都市生活の便利さとの十分な日当たりとの両立は難しい状況になっているといえます。

 さらに窓の機能には,日当たり,採光,風通しというような物理面での機能だけでなく,眺め,開放感,やすらぎなどの享受という心理面での健康に関する機能があります。言いかえれば,光,音,熱,空気といった物理的要素だけでなく,心理的・社会的な要素を含めて,建物の外から住まいの環境に必要なものを採り入れるという機能を窓が行っているのです。またこれらの機能だけを取り上げると,採光は人工照明設備によって,風通しは機械換気設備によって代えることが可能で,現代の窓の機能としては,心理的・社会的な二次的側面の方へ比重が移っているともいえます。一方日当たり・採光の量を増やすために窓の面積を単純に大きくすることは,暖冷房のエネルギーや外部からの騒音の進入を増やし,プライバシーの確保を難しくするなどの問題点があることにも留意すべきでしょう。

健康と住まいの情報(日照・照明)
大阪府
http://www.pref.osaka.jp/kankyoeisei/sumai/9sou-syo/sou-syo.html

2)照明

 人間の視覚は,外部環境からの全情報の大部分を処理しており,適当な照明(人工照明と採光の両者を含みます)によって快適な光環境を創り出すことは,健康な人間生活を支える大きな柱となっています。いうまでもなく夜は人工照明に頼らざるを得なく,人工照明は,安定した光の供給によって人間の生活時間や生活空間を拡大してきました。一方採光は,明るさの変動は大きいものの,開放感など窓の持つ心理的な効果は他のものでは代替することができません。また人工照明が進歩したといっても,光の量としては採光の占める割合が大きく,照明というという点でも窓には重要な機能があります。

 照明の目的は大きく,

  1. 見るべき対象を正しく知覚し,安全に行動でき,作業の際に目を疲れさせない明るさを確保すること。
  2. 照明の対象物や空間を演出することにより,美しさ,楽しさ,やすらぎなどの雰囲気を生み出すこと。 

と大きく2つに分類できます。一般に,住宅では最低限の明るさの確保必要であり,それに加えて,部屋の用途やその部屋で行われる行為を想定し,以上の照明の目的を検討する必要があります。

 明るさの確保の基本となる明るさの量に関する重要な指標が,ある面が照らされる程度を示す指標である照度(単位:ルクスlx)で,数字が大きくなればなるほど明るく照らされていることを示します。わが国では,日本工業規格等によって,住宅では居室別に照度の目標値(照度基準)が定められています。ただこれに応じた形で,照明器具は作られているため,一般の生活者の場合には,照度を気にすることなくカタログなどを参考に必要な器具を選定するとよいと思います。特に子供室,台所などは,視る作業が中心となる室なので,必要に応じてテーブルスタンド,手元照明など補助照明器具を加えて,適切な明るさを確保することに留意すべきでしょう。

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■住宅における照度基準と基準昼光率

 採光の場合には,人工照明よりも変動が大きいため,照度を目標値とはしにくく,室内の採光の指標としては,窓による空の利用率に相当する指標(基準昼光率)を用いています。ただ一般にこの指標の計算は大変煩雑になるため,建築基準法では,近似的に部屋の床面積に対する窓の面積の比を基準として用いています。ただ窓に関する建築基準法における考え方は,明るさの量の確保における最低基準を示すことを主眼としているため,後述する明るさの分布,明るさの質などを含めたよりよいものを示すということに対しては適当ではありません。よって住宅品質確保促進法における住宅性能表示制度の光・視環境に関する項目では,これら住宅室内での採光に関わる性能の他に前項の日当たりと方角の項でも述べた窓の総合的効果を勘案して,窓の単純開口率で評価しています。

 つぎに視野の中で,極端な明暗の差,あるいは日光や照明器具の光源などまぶしい点や面(グレアといいます)など照明環境に問題があった場合,目の調節負担により,視力低下や目の不快感・疲労などを引き起こします。目からの疲労が全身疲労につながる場合もあり,視る作業を中心とする部屋では,明るさの分布はある程度均一であることが望ましいといえます。そのための方策には,照明器具,窓などの分散配置,高い位置への配置,天井・壁などの内装の反射率を上げることによる間接光の利用,照明器具・窓材料に拡散性の高いものを使用することなどがあります。

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■極端な明暗変化―目の疲労を生むことになる。

 さらに明るさの質も重要な要素となります。まず人の顔や物体の立体感,材質感などには,光の方向性と拡散性が大きく関係します。視対象を効果的に見せるためには適正な陰影が必要となります。直射日光,白熱電球など方向性の強い光源は,陰影をはっきりさせ,つやなどの材質感を表現できます。曇天の光,蛍光灯など拡散性の強い光源は,柔らかい感じを演出できるが平板に見えてしまいます。ただ支障となる影に対しては照明器具の配置を考慮すべきです。特に廊下,階段など通路の部分については,人の移動によって影の位置も変わるので,十分な注意が必要です。

 また光の色は,温冷感に関係しているので,空間の快適性にも大きな影響を与えます。暖かみのある落ち着いた雰囲気のためには,白熱電球に代表される赤味を帯びた光源,すがすがしく涼しげな雰囲気のためには青みを帯びた光源を用いることが望ましいと思います。さらに人間が認識する物体の色は,光源の色の成分によって大きく異なって見える。特に食事をする室などでは,自然な色の再現性が良い光源を用いることが望ましいといえます。

 最後に安静,休息,精神集中にはある程度の暗さが必要です。一方高輝度光源の輝きときらめきは,活気と華やかさを増すが,輝きの地となるのが闇です。空間の求心感,精神性の創出には,対比による光を強調するため闇の部分が必要になります。省エネルギーだけでなく,健康という面からもこのような暗さの効用を忘れてはいけません。

日本住宅性能表示基準のポイント/住宅性能表示制度を理解するための手引き(光・視環境に関すること)
国土交通省
http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/hinkaku/point/2_7.pdf
住まいの照明Q&A
照明学会
http://www.ieij.or.jp/fukyubu/sumai.html