第3ステージ 「住み替えをする」
長年暮らしてきた「我が家」を手放す場合とはどのようなときでしょうか?
- 今までの家は古くて使いにくい。修繕費もかかる。この際引っ越したい。
- 歳を取ってきたので、病院や買い物に便利なところに移りたい。
- 子どもが大きくなったのでもう少し広い家に住みたい。子ども部屋を確保したい。
- 転勤することとなったが、永住も考えて新任地で家を手に入れたい。
- 家業を継ぐことになったので田舎の両親の近所に住みたい。
- 親の介護をすることになったが、狭いので広い家(介護しやすい家)に住みたい。
それぞれ、大きな「人生の転機」とも言えます。そのときに、「今までの家」をどうするかを判断しなければなりません。
今住んでいる家が「自分が建てた家・購入した家」ということであれば、そのまま売却するのか、あるいは、取り壊して土地を更地にして売りに出すのかという判断を迫られます。一般的な資産評価(例えば金融機関から融資を受ける際の担保評価等)では、古い住宅はほとんど価値が無く、土地のみが評価の対象となっていました。確かに、古い家でろくに修繕もしていないような状態では、住宅(家)の評価はゼロ、あるいは、取り壊さなければ売れないとなれば、解体費の負担もあるのでマイナスの評価を受けることとなるでしょう。
しかし、その家は例え古くなっていても、次のような状態であれば「価値がある住宅」として評価され、その後も誰かが引き継いで使い続けられる可能性が高くなります。
- 建物の設計図書や修繕履歴が残っている。
- 新築当時の施工精度が高い。(きちんと作られている。)
- 間取りや設備も(今時の)ニーズに合っている。だれにでも使いやすくなっている。
- 耐震性や耐久性、遮音性、断熱性、省エネ性などに優れている。
- 高齢者や子どもたちにも優しい。可変性がある。
- 大切に使われている。きちんとメンテナンスされている。
- 専門家の診断・評価を受け、良いところや手を入れるところがはっきりしている。
引き継いで(住み継いで)もらう相手が、子どもたちであれば、いかに親が大切にしてきた住宅なのかはわかってくれるでしょう。逆に、親が乱雑に住んでいれば、子どももそれを引き継ぎます。一つの中古マンションの事例を紹介します。
ある中古マンションの事例
築40年も経った分譲マンションですが、耐震性も問題なくしっかりとした建物で、区分所有者も長年住んでいる人が多いとても愛着のあるものでした。さすがに40年も経過しますと、外見的には近隣の新しいタイル張りマンションと比較して見劣りがしますが、管理組合が一大奮起し、見栄えの悪いエントランスや使いにくい集合郵便受け、外壁塗装、その他共用部分をモダンに改良しました。さらにいままでは無かった管理人室も新設し、その結果、安っぽい新築マンションよりも遙かに風格のある建物にすることができました。
これらは共用部分の改善なので、管理組合の考え方一つで決まってくるのですが、そこの理事長宅をおたずねしたとき、室内も最近リフォームしたとのことでとても築40年のマンションとは思えない素敵なお宅になっていました。しかし、一点だけ気になったところがありました。それは、理事長宅の和室の「柱の一本だけが古いまま」だったのです。なぜだろう? 理事長にその理由をお尋ねする前に、柱をよく見て、古いままとなっていた訳がわかりました。
その柱には、毎年5 月5 日に、子どもがどこまで背が伸びたかという記録(記録と言ってもマジックで線が引いてある程度です。)が残されていたのです。ご両親にとっては、我が家の歴史が子どもの成長であり、その柱が家族の思い出になっているのです。子どもさんもすでに独立してもう40 歳を過ぎ、ご両親も80 歳を超えていますが、この家は家族にとって「とてもかけがいのない価値」があります。もし、この家を第三者に売却するとなれば、その柱は取り替えられてしまうでしょう。
しかし、子どもさんは、この柱があるからこそ、この家を大切に、住み継いでいこうという気持ちだそうです。
一方、第三者に中古住宅として売却する場合は、大きく分けると4つに分かれます。
- 家を壊すことを条件に売却する。→土地を売るのと同じ。
- 家を売却する前に(自分が)綺麗にリフォームして売却する。
- 家を業者が買い取り、綺麗にリフォームして第三者に売却する。
- 家を買った人が、自由にリフォームする。
どれもよく見られる方法ですが、特に新しく家を買う人の意識も重要と言えます。確かに新しい住宅の品質は高く、流行のデザインが目を奪うかもしれません。しかし新しい住宅だけがよいのではありません。住み続けること、住み継ぐことの意味の深さを考えてみましょう。住宅を壊せば、トラック何台もの産業廃棄物になります。それらはみな、大切な地球の資源を使って建てられたものなのです。木材を生み出すのに、木は何年かかって育ったのでしょうか。石はその形が丸くなるまでに何回くらい川の水で洗われたのでしょうか。
気の遠くなるような時間をかけて作られた資源を、私たちは「使い勝手が悪い」、「流行のデザインではなくなった」と簡単に壊してはいけないのです。新しい技術が開発され、新しい生産がどんどん行われれば生産力・経済力の面で効果が高いことにはなりますが、ここで少し立ち止まって考えてみてください。
日本の職人さんが心を込めて作った家は、世界でもトップレベルとして誇れる技術で作られています。ブロックを積み上げただけの家や、ベニヤ板をペタペタ貼り付けた家ではありません。とおりすがりの職人がついでに建てた家でもありません。
職人さんが自信を持って、心を込めて作った私たちの大切な家を、いとも簡単に壊して建て直す文化(使い捨て)を繰り返すことを、子どもたちに押しつけていくのでしょうか?
私たち自身、「住まいに対する価値観」を再考し、より長く、地球資源として耐久性の高い家の寿命に対応した価値観に少しずつ変えてみませんか?