第1ステージ 「住まいを決める」
住宅を購入する
マイホームは、人生にとって最大の買い物といえるでしょう。手持ちの現金で買うことができる幸せな人は別として、ほとんどの人は金融機関の住宅ローンを利用し、長年にわたって金利を支払います。3000万円で買ったつもりが、金利によっては、総返済額が5000万円になっているかもしれません。
20年~30年もかけて、やっとの思いで住宅ローンを返し終わったときには、マイホームはすでにボロボロになっているかもしれません。下手をすれば負の資産になりかねないのです。ふた昔ほど前であれば、住宅ローンが払い終わったときには土地も住宅も値上がりしていて、売却しようと思えば、買った当時の金額を大きく上回っていて資金を回収できたような気になっていました。特に高度成長期やバブルの頃は、売れば売るほど儲けたというのは事実です。しかし、よく考えればマイホームを高い金額で売ることができても、次に住む家はもっと高い額を支払わなければ手に入れられませんでした。この頃は住宅ローンの金利もとても高く、7%~9%もの金利を支払っていた時期もあります。極端に言えば、借りた金額の倍以上のお金を返済しなければならないという時代もあったのです。
では、今の時代はどうでしょうか?
残念ながら、住宅を「金銭的な資産」と位置づけるのは難しくなってきました。当面、大都市への人口流入や核家族化や単身世帯の増加などで、一部の地域では住宅需要はいまだに底堅いものがあります。しかし、全体で見てみると、明らかに少子高齢化による人口減少が進み始め、家を取得したい若者の人数が減り、今の家に住み続けたい高齢者が増えていくという時代です。そうしますと、住宅を取得しても、よほどの一等地でない限り、昔のように「高く売り抜ける」ということは不可能で、今の時代は、買ったとたんに値が下がるという厳しい現実を突きつけられます。
今までは、資産価値(金銭的な財産)として住宅を所有するということを考えてきましたが、これからは、居住価値(その家に住んで生活する満足度)を求めて住宅を取得することが世の中の流れとなるでしょう。結果的には、バブリーな家は淘汰され、私たちにとって居住しやすい本当の意味での「価値のある住宅」のみが残されていくこととなるでしょう。その価値のある住宅は、「私にとって」というだけでなく、「みんなにとっても」価値のある住宅となり、貴重な社会資産として受け継がれていくことになるのです。
逆に、自分が住みにくい家、みんなに魅力のない家を買ってしまった場合は、生涯その重荷を背負ってしまうという大きなリスクを抱えることになります。
戸建てかマンションか
私たちが自分の家を建てたい、あるいは家を買いたいと思うときに、まず大きな分岐点になるのが、戸建て住宅かマンション(共同住宅)かの選択です。戸建てとマンションの根本的な違いは、その建物を一人で所有するのか複数で所有するのかにあります。マンションは、法律では2以上の区分所有者が存する2以上の住戸からなる建物という不思議な定義ですが、住宅がたくさん密着して「共同建て」となったとたんに、「専有部分と共用部分」、さらに「専用使用部分」という区分所有法や管理規約などで定めるいろいろな権利と義務(ルール)が発生します。結構ギチギチのルールで、これらを巡るトラブルもなかなか絶えません。古典的なトラブルは、上下階で発生する騒音の問題です。マンションは、意外なほど音が響きます。いままで共同住宅で生活したことがなかった人がマンションに入ると、結構気を遣うことがあります。その一方で、たとえば屋根の雪下ろしの手間がかからないなどのメリットもあります。
戸建てとマンション、どちらもメリット・デメリットがあり、どちらが良いかは決まっていません。それは個人個人のライフスタイルや価値観などから総合的に判断することになります。
建物の構造的な視点でみると、戸建ては木造あるいは鉄骨造、マンションは鉄筋コンクリート造が一般的です。マンションは建物が大きくなるため木造では建てにくく、逆に戸建てを鉄筋コンクリートで造ると、コストが大変高くなります。住宅の性能の一つに断熱性がありますが、木造に比べて鉄筋コンクリート造は隙間が少なく、コンクリート自体が蓄熱して温熱性能が良くなるため、マンションの方が夏は涼しく、冬は暖かいといえます。さらに、木造と比べて鉄筋コンクリート造の耐久性は高く、私達が提案する「住生活継続計画」を考えていく上では大きなメリットとなります。
戸建て
はじめにも書きましたが、戸建て側のメリットには建物の全てを一人で所有できることがあります。マンションも室内の専有部分は自分のものになりますが、廊下やバルコニー、建物の外壁などはそのマンションに住む全員の共用物となります。例えば、玄関扉を変えたりする場合にもあなただけでは決められません。マンションの建替えなんてことになると、事実上マンションに住む住民の大部分が合意しないと困難です。
このような共有部分の扱いをみんなで決める仕組みとして、一般的にマンションではマンション管理組合を作ります。戸建て住宅はこれらをすべて自分の思い通りに決めることができますが、逆の見方をすればすべて一人の責任でやらないといけません。
また、住宅に住み続けていくには、ハード面だけでなく「地域コミュニティ」というソフト面も重要です。東日本大震災以降も災害時の助け合いが必要だという危機感が高まり、地域コミュニティの重要性が改めて見直されています。
戸建てとマンションでは異なるコミュニティが作られる傾向があり、一般にマンションはコミュニティが形成されにくいといわれています。戸建ての場合、その地域の町内会や自治会に入会することでコミュニティが形成されていくことが多いですが、マンションの場合には世帯数が多いこともあり、自治会に加入しないケースが増加しています。一方、先に述べたマンション管理組合がこれらに代わってコミュニティに有効に働くこともあります。自分たちが良好なコミュニティを形成するためには、戸建てとマンションのどちらの選択肢が良いのかを考える必要があります。
マンション
マンションにもいくつかの選択肢があり、以下にそれぞれを示します。
- 分譲マンション
開発業者(デベロッパー・売り主)が土地を入手し、マンションの規模や間取り、販売価格などのプランニングを行う。その内容に従って、設計事務所が設計し、施工会社が建設し、販売会社が販売する。この時点で、どこの管理会社が管理するかも決めておく。これらの全体計画が決まると、折り込みチラシや住宅情報誌、ホームページなどで広報し、モデルルームを設置して販売する。(多少のオプションはあるが、基本的にはレディメイド・売買契約)
- 等価交換型・再開発型マンション
もともと住んでいた人たちと開発業者が連携し、土地の高度・効率的利用を図るために集合住宅を建設し、販売する。一般の購入者は売買契約であるが、元地主は共同建築主となるケースや、いったん開発業者に買い取ってもらって、それを等価(あるいは若干の費用負担増を伴って)で購入する。(一つの建物内で、元地主にとってはオーダーメイド、一般の購入者にとってはレディメイドが混在することとなる。)
- コーポラティブハウス
その土地に集合住宅を建てて住みたい人たちが集まって、設計事務所や施工会社と相談して建設する。各人がそれぞれ最初から自分のニーズに合わせた間取りや設備で設計できるので、各住戸が画一的なマンションと違ってすべての住戸が個性的な集合住宅が完成する。(オーダーメイド・請負契約)
- 賃貸住宅や社宅の切売り
もともと地主が賃貸集合住宅(賃貸マンション)として建設していたが、後に住戸ごとに分売され、区分所有されるようになったもの。長く住んでいる入居者が気に入って家主から分売してもらったり、家主の本業の資金調達が必要となって切り売りしたり、企業の社宅として作られたものを入居している社員に払い下げしたりするなどして結果的に分譲されたマンションが誕生する。(レディメイド中古の売買契約)
- 他用途からの転用1
もともと住宅ではなかった事務所ビルを住宅に改造(コンバージョン)してマンションとして販売する例。地方都市でオフィスの需要が減少したが、駅前に近くて頑丈なビルであったため、取り壊すのではなく建物の躯体を活かして住宅(マンション)に改造した例がある。いわゆる新築マンションではないが、グレードの高いマンションとして人気を呼んでいる。
- 他用途からの転用2
企業の独身寮や社宅を改造(リノベーション)して高齢者の居住施設などに転用して利用する例。主に賃貸用が多いが、優良老人ホームなどで利用権が分譲されるケースもある。元々居住用として建設されている建物であるので、その利用方法(利用価値)に工夫を凝らし、長く住み継いでいける建物として活用される。独身寮の食堂は、そのまま高齢者の憩いの場となる。
高度成長期などに開発されたニュータウンなどの団地で、築数十年を超えるマンションが増えてきました。一般的に考えれば、古くて使い続けることが難しくなった建物、例えば建物本体の修繕費や維持費がかかりすぎる、住宅に魅力がなくなり空き家ばかりになって物騒だ、住宅の設備に問題があったり陳腐化したりして住みにくい(5階建てなのにエレベーターがないなど)という状態になれば、建替えを検討することになります。戸建て住宅であれば、容積率や建ぺい率、近隣関係に問題がなければ私たちの意思で立て替えを選択することができます。
しかし、マンションの場合は、一言で「建替え」と言ってもそう簡単にはいきません。建替えを計画してから(みんなで話し始めてから)10年経っても一向にまとまらないというのが大半です。平成14(2012年)年に区分所有法が改正され、それまで全員合意が条件だったのが4/5以上の賛成で建て替えられるようになりました。また、何棟もある団地の場合は、団地全体と各棟それぞれで多数決決議を行うようにするなど大きな見直しが行われました。
このように「集合住宅の建替えの円滑化」に向けて、法制度では少しずつではありますが支援体制が「やっと」できてきたともいえます。しかし、集合住宅に住まわれている方の考え方、そして建て替えることへの精神的あるいは肉体的な不安、そして建替えにかかる費用負担の問題などたくさんの課題があり、現実的には大きな団地であればあるほど困難な状況であるといえます。
事実、建替えに成功しても、それに耐えられずに新たな居所を見つけて引っ越していってしまう人もいますし、工事期間中の仮住まいで体を悪くされる方、建て替え後のランニングコストが支払えない方(管理費や修繕積立金、固定資産税などが値上がりするため)もいて、元のコミュニティも崩壊してしまいます。
特にご高齢の方には、エレベーターがなくて不便だけど、古くても、不便でも、思い出の詰まった今のままの方がいいという方も少なくありません。
過去の実例を見てみますと、たいていの場合「建替えに積極的に賛成」の人と「建て替えではなく、現在の家を長く使っていきたい」と思われる人との間で対立が起こります。バブルの頃は、建て替えれば家は新しくなるし、部屋も広くなる、一円の持ち出しもないし、場合によっては、保留床を売却すれば利益も出るなどという例もありました。このような幸せ?な時期と違い、いまは建替えには相当な痛みが伴います。建替資金を確保するために元の家の広さよりも狭くなる可能性も高く、また、建築基準法の制限により元の住宅戸数と同じ戸数を作ることができず全員が戻ってくることができない場合もあります。
そのことをよく理解して、建て替えするかしないかのどちらかに全員が賛成してくれればいいのですが、それぞれの考え方や事情により意見が対立、場合によっては権利の主張がぶつかって裁判となることもあります。
そこで最近、新たな取り組みとして「団地再生」というキーワードが重要視されるようになりました。元の建物の良さを活かしつつ、建物の耐震性や、耐久性、室内の使い勝手や設備のグレードを、入居者が満足する最善の状態に「大改造」していこうというものです。
最近テレビで「使いにくい戸建て住宅」を改造する番組が放送されていますが、団地再生の場合は、様々な制約(建物の制約だけでなく、区分所有者や入居者の様々な事情、ニーズなど)の中で成功させていくという、まさに「超スーパーリフォーム」とでもいえる取組みがなされているのです。
もちろん、取り壊すにしても、スーパーリフォームにしても、多額のお金がかかることは間違いありません。しかし、思い出の我が家がなにもしないで朽ち果ててしまっていいのでしょうか? 美しく再生され、また、新しい世代の人たちに住んでもらえることが、この家にとっての最大の幸せであり、私たちの達成感であり、私たちが残していける思い出と心の財産です。