住まいのすごろくマップ

特設ステージ「まちづくり」

まちについて話し合う

「まちづくり」の第一歩は、近所や地域の方々と一緒にまちの魅力や問題について話し合うことです。 しかし、いきなり話し合おうとしても難しいものです。また、自分が住んでいるまちにも意外と知らないこともあるものです。

そこで、最初の取り組みとして、「まちあるき」と「ワークショップ」をお勧めします。

「まちあるき」は、目的をもって地域を歩くことが基本となります。まず地図を片手に、まちの魅力と問題を探して歩いてみましょう。よく知っているはずのまちが違って見えたり、新しい発見もたくさんあることでしょう。他の人と一緒に話しながら歩くと、それだけで楽しいものです。たとえば「みどり」、「まちなみ」などのように、テーマを設定することも有効です。

まちあるきをして魅力と問題を発見したら、参加されたメンバーで話し合ってみましょう。グループでひとつのテーブルを囲んで、大きな地図にそれぞれの発見を書き込んだり、付箋に記して貼ったりしていくことで、「ああ、みんな同じことを問題と思っているんだ」「魅力を感じるところがこんな風に違うんだ」ということがわかります。考えをたくさん出し合って整理すると、まちづくりの方向性が見えてきます。このような作業は「ワークショップ」と呼ばれ、たくさんの地域で開催されるようになっています。

まちあるきとワークショップにも、楽しく進めるためのたくさんの方法や工夫があります。建築やま ちづくりの専門家にアドバイスを求めるのもいいでしょう。

photo_5_1_03photo_5_1_04
まちあるきの様子(中西正彦撮影)

photo_5_1_05photo_5_1_06
ワークショップの様子(中西正彦撮影)

このような機会は、地域の皆さんが自ら作り出すだけでなく、自治体が様々な「プラン」を作る際にも得られます。

今日、自治体は行政をしっかり進めるために、いろいろな分野で「プラン」を作っています。まちづくりに関しては「都市計画マスタープラン」や「みどりの基本計画」などが代表的なものです。

ご自分がお住いの市町村の都市計画マスタープランをぜひ参照してみてください。Googleなどの検索エンジンで「○○市 都市計画マスタープラン」と検索するとすぐに見つかります。

このようなプランを作成する際に、自治体がお住いの方々の参加を得てまちあるきやワークショップを実施することがあります。広報などから、ぜひそのような機会を探して参加してみてください。

リンク

まちの価値について考える

まちの価値を高めていくために、住民には、どのような働きかけができるのでしょうか。ここでは、地価・住まいの価値・居住地の価値に分けて、まちづくりの観点から、住まい手にできることを考えてみましょう。

地価

住まいのうち、土地の部分は、不動産市場においては「地価」というかたちでとらえられ、金銭との交換可能性によってその価値が決められています。ただし、そうした金銭によってとらえられる価値は、バブル景気などによって大きく左右されるため、「住まいの価値」を考えるうえで、必ずしも適切な指標とはいえないところがあります。言いかえれば、ある住まいの建物やそれが立地している地域の状況がまったく変化していない場合でも、市場との連動により価格は上下することがあります。したがって、「地価」を参照する場合には、常に「時価」としてのゆがみをもっている点に留意する必要があるでしょう。

住まいの価値

住まいをめぐる建物の部分は、不動産市場などにおいて、その価値は減価償却という考え方でとらえられます。これは、新築時点を頂点にその価値は下がっていくという、新しさに重点をおいた考え方です。しかし、時間の経過が単に劣化をもたらすのではなく、新築ではおよそ醸し出すことのできない味わいや佇まいを住まいにもたらし、人々を魅了する場合もあります。また、草花の手入れなど、個々の住まい手が日常生活のなかで少しずつ手をかけることによって創り出す雰囲気や景観が、魅力的な居住地域を形成し、立地条件を高めていくこともあります。「住まいの価値」とは、こうした人々の居住の営みの結果として生み出される価値のことを指しています。

居住地の価値

「居住地の価値」は、人々の日常生活の実践が創り出す「住まいの価値」を中核として、都市機能、利便性、環境、歴史、文化といった、様々な立地条件を含み込むかたちでつくられており、単純に「地価」に還元されるものではありません。むしろ、今後、まちづくりの観点から重要となってくるのは、住まいをめぐる人々の創造力、言いかえれば自分の住まいに対する住民の働きかけです。日々の暮らしのなかで、それぞれの住民が自分たちの暮らす場所を、住み心地の良いものにし、住みごたえのあるものに変え、年月をかけて住みこなしていくとき、それらの働きかけが相乗的に積み重なった結果、「居住地の価値」は高まっていくと考えられるでしょう。

まちの価値と居住の営み

img_5_1_01

事例紹介:阿佐ヶ谷住宅

 

公団初期の分譲住宅に「阿佐ヶ谷住宅」と呼ばれる、テラスハウス形式をメインにした団地があります。現在は、民間の不動産業者により分譲マンションへと建て替えが行われ、往時の様子は残されていません。しかし、1958(昭和33)年に入居が開始されたこの住宅地は、半世紀の時を経て、およそ新築の住宅では醸し出すことのできない雰囲気や年輪を感じさせるものに熟成しており、居住地の価値を考えるうえでひとつの恰好の事例となっていました。 

阿佐ヶ谷住宅では、それぞれの住戸の専用庭との連続線上に、さまざまな草花や木々の生い茂る空間が広がっていました。そこでは、住人達が草花の手入れをしたり、花見をしたり、バーベキューをしたり、子供たちを遊ばせたりしながら、日常生活のなかで少しずつ手をかけることによって生み出された共有空間がありました。

ここで重要なことは、互いに見知らぬ者同士が偶然集まって住むことになったにもかかわらず、そこには味わい深い日常の景観が創り出されていたことです。こうした日常景観は、植物の自然の秩序でもなければ、計画に基づく人工の秩序でもなく、その中間に位置しつつ、人びとの居住の営みの相乗的な効果としてはじめて実現するものであり、住まいや居住地の価値を考えるうえで、参考になる事例といえるでしょう。

img_5_1_02
大月敏雄撮影