住まいのすごろくマップ

第3ステージ 「住み替えをする」

住宅を売る

皆さんが「自宅を売る」ときは、どのような時でしょうか? 今まで住んできた家に別れを告げ、真新しい新居に移れる「明るい引っ越し」もあれば、経済的に維持できない、どうしてもこの地になじめない、不便になりすぎたなど、どちらかと言えば「暗い引っ越し」もあるでしょう。

また、人生のさまざまなライフステージにおいて家族の形は、結婚、こどもの誕生、こどもの成長、両親の介護、子どもの独立や配偶者との別れなどと大きく変化します。家族の生活の器としての住宅が、どのような場合でもマッチしているのか、住み替える場合はどのように選択するかは各章を通じて述べてきましたが、その中でも住宅を手放して住み替えるという選択をする場合、いままで住んできた大切な住宅に愛着があれば、「いい人に住み継いでもらいたい」と思いますし、一刻も早く手放してしまいたいという気持ちの場合は、二束三文の評価しかつかないかもしれません。

家を買いたいと思う人から見れば、大切にされてきた家か、捨てられた家かはすぐにわかるでしょう。それは皆さんが、次に住もうとする家を見たときにどのような印象を持たれるかでもわかると思います。売るためだけの見かけ倒しのリフォームにだまされないようにしなければなりません。

売りたいと思っても、「大切に住んできた」という住宅でない限り、いつまでも売れずに、ますます価格が下がっていく。売れない間が長期間になってくると、室内の換気も十分にできませんから、ほんとうに家が腐ってしまうのです。

さて、いよいよ「家を売る」となったときに気をつけておくこととはどういうことでしょうか?

今の家に住みながら売る時期をのんびりと模索できる場合、あるいは既に新居に引っ越しているけれど前の家はすぐに売れなくても資金的には困らないなどの場合は、世の中の経済情勢や税制などをしっかりと把握して有利な時に売りに出すことです。逆に、今すぐに処分しなければならない場合(いわゆる売り急ぎ)は、希望どおりの価格で売るのはまずは無理と考えてください。

極端な場合の例として、住宅ローンの返済が滞り、もしかしたら競売にかけられるかもしれないときなどは、とても低い価格でしか売却できません。この場合、売却できたとしても、住宅ローン債権が消えるわけではなく、家を失っているのにまだローンの取り立てから逃れられるわけではありません。

さて、所有する資産の価値はどうなるのでしょうか。



経済状況を見る

不動産価格に与える最も大きな要因は景気の変動です。

一般的に景気がいいときは売買がさかんに行われるので需要に対し供給が相対的に少なくなりますので価格は上昇しますが、逆に不景気のときは需要が減退し、供給過多になるので価格は安くなります。最近はなかなか景気が回復しませんので需要はあまり増えませんが、デベロッパーは住宅を供給しない限り会社が倒れてしまうので、安くしてでも供給を続けます。この中にはお買い得のものもあれば、安かろう悪かろうのものも当然含まれてきます。

ここでの心理状態は、とにかく「早く売りたい」という気持ちか、「早く買いたい」という気持ちかになります。早く買った方がいい場合とは、例えば消費税が上がるとか、住宅取得減税の特例措置が打ち切られるなどの場合が考えられます。

個人で売ろうとする場合、「早く買いたいと思う人がいる」というタイミングで売るときが売主には得になります。逆に、「今は買いたいと思っている人が少なそうだ」というタイミングの場合には景気の回復を待つというのもひとつの手です。

では、いくらで売れるのならいいとお考えになるでしょうか?

もちろん、最初に建てたとき、あるいは買ったときの値段よりも高く売れれば「儲かった」と思われるかもしれません。しかし、住宅を取得して所有権を持ち、1日でも住んでしまえばその住宅はもう「中古」です。新品同様ぐらいなら主張できるかもしれませんが、「新築」としては売れません。さて、「中古」となった場合、例えば新築から1年住んで売る、10年住んで売る、25年住んで売るを比較した場合、当然住宅は古くなればなるほど値段は下がっていきます。

過去のバブル時代や、その家の近くに鉄道の新駅ができるなどの場合は、建物の価格は下がっても土地の値段が上がって、結果的にプラスになる場合もあるでしょう。ただ、現実的には古くなれば価格が下がるという事実は真剣に受け止めなければなりません。

住み替えの税制を考える

 

家族の形が変化することによって、住み替えが必要となり、住宅を売却するケースがあります。売却によって利益が出た場合は譲渡所得を得ることになり、所得税や住民税を課せられることになりますが、住宅に対してはさまざまな税制上の軽減策が用意されています。

  • 短期譲渡所得 (所有期間5年以内)
  • 長期譲渡所得 (所有期間5年超)
  • 居住用財産を譲渡 長期譲渡所得(所有期間10年以上)
  • 優良住宅地の造成等のために土地を譲渡 長期譲渡所得(所有期間5年以上)
  • 長期譲渡所得 10年を超え所有し、かつ10年以上居住しているもの。
    http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/zeisei_index2.html
    また、住宅を売って譲渡損益が生じた場合は、損失額をその年の所得から差し引くことができます。
  • 譲渡損失の繰越控除制度

資産価値を考える

 

中古物件の価格を決定する要因として建物の居住性、構造、利便性、管理・修繕状況、周辺環境などがあります。建物を売る場合、持ち主としてはできるだけ高く売りたいのが常です。

不動産価格を決定する要因は「建物」と「建物を取り巻く環境」に分類できます。「建物」は購入時より劣化していきます。しかし、階高を十分に確保してある場合、可変性が高いためリフォームによって内装を新品にすることができ、居住性を向上させることができます。特に管理・修繕状況は大変重要なファクターです。建具、防水、設備機器は修繕周期・改修周期があり、適切に行われない場合生活に支障をきたしてしまいます。修繕・改修を行うためには日ごろから積立金を適切に用意し、計画的に行う必要があります。もしこれらが適切に行われていない場合、不動産価格を下げる大きな要因となります。また、地震に対する不安から、耐震性に優れた構造のしっかりした建物は中古物件でも居住者が安心して暮らしていけるため、売買の際のアピールポイントになります。

ただし、法令違反となるリフォームや、建物の構造に影響するリフォーム、分譲マンションの管理規約に抵触するようなリフォームはできませんので十分注意が必要です。

なお、リフォームしてから売るか、買った人が自分で好きなようにリフォームするかも大きな分かれ目です。どちらが売りやすいか、どちらが購入者に満足していただけるかなども考慮し、ニーズにあった方法で売りに出すことが肝要です。

一方、「建物を取り巻く環境」は日々変化しています。近所にあったスーパーが閉店した、近くに公園ができた、南側に高層マンションが建つことになった、空き家が増えてきたなどです。

利便性が良い、豊かな自然があるなど、快適な街は多くの人々が魅力を感じており、みんなが住みたいと考えています。都心に近い、昔からの閑静な住宅街、魅力的な商店街がある街は中古住宅でも人気がありますし、住宅が売れない場合でも「借りたい」と言う人が見つかるかもしれません。

また、駅に近いというのは大きな魅力と感じられると思います。最寄り駅から徒歩10分以内の物件は不動産価格が下がりにくい傾向にあります。

ただし、駅に近いということが逆の作用を及ぼす可能性があることも考えておかなければなりません。一昔前は交通機関として電車通勤や・通学が当たり前で、駅前はとても栄えていたというような場所は、たいていの場合、道路が狭い、駐車場がない、駅前商店街は小さな店舗が多く見られます。ところが、時代が進むにつれ、郊外型の大規模ショッピングセンターができた、車を使う人が増えた、電車の本数が減った、駅前商店街がシャッター通りとなったなどの場合は、必ずしも駅に近いことが利便性が高いことと結びつきません。駅近くに住んでいる(残ってしまった)のは高齢者ばかりで、車も乗れない、駐車場もない、スーパーも病院もみんな移転してしまい「駅チカ」なのに日常生活がとても不便になったなどというような町は、どこにでも見られます。

旧市街地中心商店街の活性化や駅前再開発がうまくできればいいのですが、こまかく区割りされている土地の所有者の権利関係の調整も簡単ではないので、再開発の計画がすすむのに膨大な時間とコストがかかってしまいます。

万が一、建物周辺がスラム化してしまった場合、街としての魅力が極端に下がり、不動産価格を下げる大きな要因になります。

かつて大規模に開発された団地では分譲を集中的に行ったため、住民の世代に偏りがあり、歪な人口分布となりました。その後子どもが成長し、家を出て行くと夫婦2人には不相応に大きな家となり、また少子高齢化によって若い世代の団地への流入がないため新陳代謝が行われず、長引く不況が街の活気をさらに奪う悪循環となっています。街をスラム化させないためには住民が積極的にまちづくりに参加していく必要があります。