住まいのすごろくマップ

第2ステージ 「住まいを使う」

近隣トラブルに巻き込まれる

新しい家に引っ越すときは、とてもワクワクの「期待感」があります。都市部の利便性の高い立地で最新型設備が整った分譲マンションでは、ハイセンスで快適な日常生活を送ることができるでしょう。また、郊外型一戸建て住宅では、自然と共生しながら、静かでゆったりと健康的な生活を送ることができるでしょう。一言で言えば、どちらを選ぶにしても私たちは「住環境」をどう考えるかということになります。

では「住環境」が「良い」、「悪い」はどう判断すればいいのでしょうか? その人が新しい家でどのように暮らしたいか? ということは千差万別、人によって重視するポイントは異なります。どのような「住環境」を選ぶにしても、自分たちの夢を実現することができる第一歩を歩み出すこととなります。

ところで、「もの」として手に入れる住宅はピカピカの「新築住宅」あるいはオシャレにドレスアップした「中古住宅」かもしれません。そして私たちは、その新しい「エリア」に住むピカピカの1年生になります。新規開発の大規模ニュータウンや新築マンションなら、全員が新入生となりますが、そこが既存の住宅地だったり、既存の中古マンションだったりする場合は、私たちはいわゆる「転入生」となります。皆さんはご経験があるかはわかりませんが、中途半端な時期に「転校」や「転職」を余儀なくされるときの心の状態はどうでしょう?

「新しい土地でうまくやっていけるか?」、「近所の人たちと仲良くなれるか?」そしてもっとも心配なのが、マンションであれば上下左右に接する住戸、戸建て住宅であれば敷地に隣接している住宅や道路を挟んだ反対側の住宅などとのおつきあいとトラブルです。

私たちは一人だけで生きていくことはできません。安心・安全に生活していくためには隣近所とのつきあいが大切です。

古い住宅地であっても、新しい住宅地であっても、お互いがお互いのことを尊重し、配慮していかないと些細なことからトラブルを引き起こすことがあります。例えば、ゴミの出し方の問題、騒音問題、あるいは建設時点で引き起こされた業者と近隣住民のトラブルを、実際に住む私たちが引き継がなければならないかもしれません。

また、その地域やそのマンションに、一員として住むということは、住むという「権利」を主張するよりも「義務」を守ることの方が圧倒的に大変です。どんなに小さなことでも自分勝手にすることは許されません。

近隣とのおつきあい

一言で「近隣とのおつきあい」を正しく理解するのは困難です。電車やバスのなかでたまたま席が隣になったのとは違います。

「居住する」という言葉をキーワードにもう少し詳しく見ていきますと、近隣との接点(コミュニティ)として、もっとも身近なのは隣近所、自治会、分譲マンションであれば管理組合、子どもが学校に通う場合は学校区やPTAの一員になるということになります。

  • 自治会(地域コミュニティ)

     

    自治会という言葉はよくお聞きになっていると思います。自治会の回覧板が回ってきたり、ゴミ当番を決めたり、消防訓練や運動会などのイベントもあります。また、防犯や防災も自治会が主体となります。いわゆる地域コミュニティです。これらにどの程度参加するかということは各個人の裁量で決められるわけですが、これから「地域のみなさんと上手に生活していく」ためには、ある程度「積極的に参加する」ということが大切です。自治会の中には、さらに細かく子ども会や敬老会などがある場合もあります。お互いを支え合うことの絆は、お互いを知る、地域住民となることから始まります。

  • 管理組合

     

    管理組合は、分譲マンションを管理するための組織(団体)です。上手に管理するためには、管理組合内のコミュニティをうまく形成していくしか方法がありません。

    「分譲マンション」の場合は、一戸建てや賃貸アパートみたいに所有者一人だけで維持管理するというわけにはいきません。購入者(区分所有者)が組織的に管理運営をすることになります。つまり、分譲マンションを買ったら最後、たくさんの共同所有者(管理組合)の中の一人として管理する義務を負うのです。ここでいう管理とは、廊下や階段の清掃のことだけではありません。そのマンションをどうやって維持していくかを決定し、お金を集めて実際に運営していく、いいかえれば「経営者」とも言えるわけです。

    分譲マンションは、自分で住もうが、空き家にしていようが、人に貸そうが、どのような場合であっても管理責任は所有者自身です。貸しているからと言って借りている人(賃借人)に責任を押しつけるわけにはいきません。そこでなにかがおこれば所有者自身(管理組合)が解決していかなければなりません。

    分譲マンションは、マンションの売買契約書に印を押した段階で、「守らなければならないルール(区分所有法や管理規約、使用細則など)」に縛られることになります。ルール違反はできません。購入した自分たちが管理組合として物事を判断し、決定し、実行しなければならないのです。マンションは「管理を買え」とか言われることもありますが、正しく言えば「管理」は買うことはできません。事務的に管理(清掃や管理員事務、管理費の引落や帳簿付けの手伝い)を引き受けてくれる「管理会社」というものはありますが、これはあくまで、管理組合が行う(行わなければならない)仕事の一部を対価を受け取って引き受けてくれるだけであって、なにをするか、いくらでなにをやってもらうかはすべて管理組合で決めなければなりません。お金さえ払えば快適に宿泊できる高級ホテルみたいに管理会社が何でもやってくれるなんていうのは妄想です。

  • 管理組合 vs 自治会

     

    管理組合は、一つの区分所有建物としての「分譲マンション」を管理するための組織であることが一般的に理解されていますが、区分所有できるものは「住宅」のみだけではありません。店舗やオフィスも区分所有されている場合があります。

    駅前の再開発型の建物では、「分譲住宅部分」+「分譲オフィス」+「分譲店舗」+「公共施設(役所の一部だったり、出先機関だったり、保育園など)」+「元の地権者の持ち分(自分が住んでいた住宅や貸屋、店舗、事務所、倉庫など様々)」などが一つの管理組合を構成します。よほどうまく管理(合意形成)をしていかない限り極めて深刻な利害の対立が起こります。

    このほか、大きな団地の場合は、団地全体を管理するための「団地管理組合」という組織がある場合があります。その中には超高層の建物もあれば、テラスハウス(長屋形式)の建物も混在しています。60階建てと2階建てでは、建物にかかる維持費(管理費や修繕費)も全く違います。それぞれかってにやれば、町並みも秩序もすべて崩壊してしまいます。団地としての魅力は失われ、資産価値、居住価値は下がる一方でしょう。

    さて、建物やそれに付随する土地・施設の維持管理は管理組合ですが、実際の生活マナー(ゴミ出しや共用部の清掃、消防・防災訓練、その他地域での活動)は、自治会の役目です。小規模な分譲マンションや賃貸マンションでは、その建物内に特別に自治会が結成されることはあまりありませんが、大規模マンションや団地では自治会が構成される場合が少なくありません。一般的にはこれらの住民もその地域(住所)にある既存の町内会に加入する場合が多いのですが、巨大な団地やニュータウンでは、近隣の町内会とは別に、その中だけで新しく独立して町内会を構成してしまう場合もあります。

    管理組合は、土地・建物(=財産)の共同管理ですが、自治会は、共同生活の維持が目的です。場合によっては、管理組合の意見と自治会の意見が対立することもあります。一つのマンションの中に管理組合の理事長と自治会長が住んでいることがあります。管理組合には理事会役員が、自治会には自治会役員がいます。理事長と自治会長、あるいは理事会役員と自治会役員は、同一人がやっていることもありますが、全く違う人で組織されている場合もあります。

    常に利害が同じならいいのですが、対立してしまう場合もあります。問題が発生すると押し付け合いにもなったりします。また、管理組合は区分所有者全員で構成されていますが、必ずしもそこに住んでいるとは限りません。一方、自治会は居住者で構成されますが、原則的には加入は任意(入居者には加入を条件としている場合もあります。)ですし、住んでいない区分所有者(不在区分所有者:貸している人など)は自治会の構成員ではなく、借りている人も自治会の一員として権利と義務を負うことになりますので、理事会と自治会が対立する可能性があります。これは、戸建て住宅地でも同じことで、一戸建ての貸屋やアパートに住んでいる人は所有者ではないが自治会の一員にはなることができるということです。

  • いわゆる隣近所

     

    隣近所とは、もっとも親しいコミュニティができやすい(作りやすい)おつきあいになります。お互いを招いてお茶会やお食事会をしたり、趣味が合えば小さなクラブ活動のようなおつきあいになるかもしれません。さらに子どもたちが同じ学校に通ったり、学年が近かったりしますと、さまざまな情報交換もなされます。家族ぐるみの付き合いが深まれば、ハイキングや紅葉狩りなどに一緒に行ったりすることもあるでしょう。

    さて、いつでも隣近所とのおつきあいがうまくいく、だれとでもうまくやっていけるという方であれば、そうそう心配することはありませんし、また、新居に移ることで新しい出会いもありますから、そのようなおつきあいになじむ方は近隣トラブルに巻き込まれる可能性も少ないでしょう。

    これに対し、古くからある諺「郷に入っては郷に従え」というとおり、その地域の風習や慣習、すでに形成されているコミュニティにうまく入ることができないと、近隣とのおつきあいが苦痛となってきます。それだけではありません。隣のゴミが飛んできた、生活時間帯が違うので生活音が疎ましく聞こえる、いつも監視されている、私たち(新参者)の話を聞いてくれない、地域の催しに無理矢理参加させられるなど、精神的・肉体的な負担を感じるようになるかもしれません。

    特に近密度が高い小さな既存のコミュニティに加わるのは、難しい場合も少なくありません。場合によっては「言葉の違い」(いわゆる「方言」など)もあります。頻繁に飲み会が開催されることもあります。お酒が強い人ならおつきあいも深まるかもしれませんが、お酒が飲めない人にとってはなかなか参加がしにくくなるかもしれません。

    これらは、コミュニティへの参加の程度問題とも言えますが、防犯や防災、災害時の助け合いなどの場合は、このコミュニティはとても心強いものとなります。例えば「防犯」。知っている人が多い地域で、近所の人と出会えばみんなが挨拶しますし雑談がはじまります。見知らぬ人であっても、子どもたちが挨拶してくれたり、ほほえましく感じる町に来たと思うでしょう。一方、よそ者の不審者がいればお互い気をつけることができるでしょう。逆に、都心部の賃貸マンションや、過度にプライバシーが尊重されている一部の超高級マンションなどでは、それこそ隣に誰が住んでいるのかすらわかりません。すれ違っても挨拶一つしません。住民なのか訪問者なのか、はたまた不審者なのかすらまったくわかりません。

    お互いを知らないと、ほんのちょっとしたことがトラブルに発展することもあります。例えば、マンションでよくある「上階に住んでいる住民の生活音がうるさい。」というようなトラブルです。お互いが知り合いであれば、音に対しては気を遣うようになるでしょう。もしかしたら上階には元気な子どもさんがドスンドスンと走り回り、下階には病気療養中のおばあちゃんが住んでいるかもしれません。上階の音が気になって気になって・・・療養どころではありません。結末は「静かにしてください!」と怒鳴り込む。

    また、下の階のベランダで吸っているタバコの匂いが上階の洗濯物についてしまうかもしれません。ただ、露骨に「吸わないでください」とはいいにくいでしょう。このあたりも、日頃からお互いに配慮しているかということにつきます。

    しかし、お互いの様子を知っていれば、良い意味でお互い気を遣うようになるでしょう。戸建て住宅であっても、気遣いが足りないとトラブルになります。隣の植木の枯れ葉が落ちて困る、布団をはたくと綿ゴミがみんなこちらに飛んでくる、家の前にゴミを置かれる、隣の家の自転車がはみ出して留めてあり出入りの邪魔になっている、いつも留守にされているので、宅配の預かりものばかりで迷惑している。夜も暗くて物騒だなど。

それでも最も重要なのは地域コミュニティ

大規模災害時のキーワードに「自助、共助、公助」という言葉があります。まずは自分で、そして地域(隣近所)で、そして最後に公的な助けが届くというものです。災害時にもっとも身近で頼りになる人とは、「近隣住民」です。ですから日頃から隣近所とのコミュニティがうまくいっているということはとても心強く安心・安全に暮らしていけるということにつながります。

「公助」は残念ながらあまりあてになりません。救急車も来ない、消防車も来ない、警察も来ない。もちろん役所もいつ来てくれるかわからないし、避難場所すらわからない。もっとも頼りになるのは「近隣住民」からの情報であったり、お互いの支え合いです。

万が一、地域コミュニティに溶け込めなかったらどうしますか? 自分に合うところを探して、引っ越しを繰り返しますか? 一度住んでしまうと、そう簡単には引っ越しはできません。ましてや、念願のマイホームを手に入れたのに、そこで生活ができなければ、精神的、肉体的、金銭的に大ダメージを被ることになります。

一人暮らしなら、多少は気ままに引っ越しができるでしょう。しかし、マイホームを持ちたいと思うきっかけは、子どもの成長が大きなポイントとなっています。それなのに、近所づきあいがうまくいかないからといって引っ越しを重ねたのでは、子ども自身の精神面でプラスになるはずがありません。

近所づきあいがうまくできそうかどうかは、よくよくの見極めが大切です。

地域の一員として

既存の住宅地に新しいマンションの建設計画がもちあがると、たいていの場合「建設反対運動」が起こります。確かに、高層マンションが建設されれば、日あたりや通風が悪くなったり、景観も悪くなるかもしれません。

また、整然とした美しい町並みを形成している戸建て住宅地に奇抜な色彩の新築住宅や、やたら小さなミニ開発建売住宅が売りに出されたらどのようになるでしょうか?

今まで良好だったコミュニティが一挙に崩壊するかもしれません。元は地元住民対マンション分譲業者や建売業者との争いですが、その分譲マンションや建売住宅を購入した人たちはそのような争いや反発があることを知らない場合がほとんどです。購入前に建設現場に出向いてみて、「マンション建設反対!」などの横断幕や登りが掲示されていないかはよく確認しておいた方がいいです。引っ越した後に、元はといえば建設業者との争いだったのが、その争いが本来無関係のはずの管理組合に対して引きずられてしまうことも現実には発生しているのです。

建設時のトラブルで、既存の町内会が「あのマンションの住民は(町内会)に参加させない!」などという場合もあれば、逆にマンション住民側が「この町内会には参加しない!」といったケースも現実化しているのです。

しかし、本当にこれでよいのでしょうか?

古い町並みで、景観を壊すマンションの建設への反対運動はどこにでもあるでしょう。しかし、そのマンションに引っ越してくれる子どもたちが次世代の町を作ってくれるのです。もちろんそこには伝統の引き継ぎもあります。そして発展もあります。大人ばかりのお祭りが楽しいはずがありません。子どもたちがいるからこそ、その町が活気づくのです。

近隣とのおつきあいは、大きなリスクとなる可能性はありますが、その地域での自分たちの安心で安全な生活を築き上げてくれる大きな土台となるのです。