住まいのすごろくマップ

第2ステージ 「住まいを使う」

つまづいてケガをする

住宅内では、思いがけない事故が起こる事があります。たとえば、東京消防庁では平成13年567,451人が家庭内の不慮の救急事故で搬送されています(国立保健医療科学院建築衛生部・鈴木晃「住宅内の事故―入浴中の急死を中心に―」による)。そのうち、転倒は46.6%を占め、また人口に対する比率で見ると、0から2歳と70歳以上が突出しています。このような事故の原因のひとつは、高齢者などにとって日本の住まいが使いにくいことです。

そこでここでは、たとえば加齢や障害などによって、住まいを使いにくいと感じるようになったときの「住まいを使う」手段について考えたいと思います。健康なうちは不自由なく使うことができた住宅も、年を重ねて体の機能が低下することで使いにくさを感じ始めます。自分が年を取る前に、家族の介護が必要となり、初めてこのようなことを感じるかもしれません。

体が不自由な人にとっての住まいを考えるとき、実は日本のこれまでの住宅は大変使いにくく、危険が潜んでいるといえます。例えば、建築基準法によると、地面からの湿気を防ぐため、1階居室の床面は地面から45cm以上高くすることが定められていますが、これを守ると室外と室内に段差が生じます。体が不自由な人の生活を考えると、このような段差はつまずきや転倒の原因となります。

また、日本の住宅は尺貫法を基本に造られているため、多くの場合、廊下やトイレなどの幅員は3尺(91cm)で作られます。介護や車椅子の生活を考えると、この幅寸法では狭く、十分なスペースといえません。さらに、最近では冬期の入浴時にヒートショックを起こして亡くなってしまう高齢者が多く、交通事故による死者の倍以上に上っています。脱衣室や浴室をあまり暖房しない日本の住宅では、寒い冬の夜に暖かい居間から寒い脱衣所に行って服を脱ぎ、浴室で熱い浴槽に体を沈めることで血圧を大きく変動させてしまうことがヒートショックの原因となっており、このような住環境が高齢者の家庭内事故に大きく影響しています。

段差や温度差など住まいを使う上で「障害」となっているものをバリアと表現し、住む人に合わせてバリアを解消した状態をバリアフリーと呼びます。バリアフリーには、スロープやすりつけ板を設置して段差を解消したり、浴室などの床を防滑施工して転倒を防止したり、廊下やトイレ、お風呂に手摺を設置したりなど様々な方法があります。身体が不自由になったとき、このバリアフリー化がどの程度できているかが、快適で安全に住まいを使い続けるポイントになります。

新築時からバリアフリー

最近では、新築時からバリアフリーにしている住宅が多くあります。住宅の品質確保の促進等に関する法律(住宅品確法)に基づく「住宅性能表示制度」の中でも「高齢者等への配慮に関すること」という項目が入っており、バリアフリー化など高齢者等への対策の程度が示されています。これには体が不自由な人に対して、住空間がどれほど安全であるか、住みやすさのための配慮や対策がなされているかを等級1から5までの段階に分けて表示されています。新築住宅の場合には、この等級をバリアフリー度合いの目安にすることができます。

【高齢者等配慮対策等級(住宅品確法)】
出典:「日本住宅性能表示基準」2001年国土交通省告示第1346号をもとに作成

また、この考え方を発展させて、ユニバーサルデザインといわれる高齢者だけでなく幼児や障害者を含む全ての人が安全に生活することをコンセプトした設計もなされています。しかし、初めから不必要なところに手摺を付けたり、トイレが広過ぎたりすると、それらを使わない人にとっては使いにくい住宅となる可能性もあるので、一緒に生活している家族の状況や将来の生活スタイルを見据えてバリアフリー化することが望ましいといえます。

既存の住宅をバリアフリー化

既存の住宅では、住宅改善によってバリアフリー化を図り、身体的能力の低下に対応することができます。住宅改善には、生活の場を2階から1階に移すだけの部屋替えから手摺設置や間取りの変更などの改修・改築までのレベルがあります。どのレベルで改善するかは、身体機能の程度、資金計画などを考慮して決めますが、できれば今後の変化に対応できるようにするべきです。つまり、現在の身体機能を十分活用できるように配慮するとともに、介護の視点を含めてなるべく自立生活ができるように、もしくは、寝たきりの生活になっても本人や家族が住みやすい設備や間取りにすることが、住まいを使い続けていく上で重要です。

【玄関の住宅改善の例】
出典:「福祉住環境コーディネーター検定試験3級公式テキスト」東京商工会議所

また、改修レベルでは、移動用リフトを設置したり、介護のためにトイレの大きさを広げたりすることがありますが、取付けに下地が必要となったり、構造的に取外しできない壁や柱があるので、年を取ってからバリアフリー化する場合でも、新築時からあらかじめ改修することを考えて設計しておくことが望ましいといえます。

【壁面撤去による住宅改修の例】
出典:「福祉住環境コーディネーター検定試験3級公式テキスト」東京商工会議所

高齢者用に住宅改修を行うときには、地方公共団体の住宅課・福祉課などのほかに、地域包括支援センター、在宅介護支援センター、介護実習・普及センター、高齢者総合相談センターなどに問合せするとよいでしょう。そこでは、建築士や介護支援専門員、住宅改良ヘルパー、増改築相談員、マンションリフォームマネージャーなどが対応してくれます。

また、資金面で利用できる制度として、介護保険制度要介護認定をされている人であれば、住宅改修費の支給(改修費は1割負担。支給限度額は20万円まで)を受けることができます。それ以外にも、高齢者住宅改造費助成制度や高齢者住宅整備資金貸付制度などがありますが、これらの制度の実施状況・内容は地方自治体によって異なります。

「転ばぬ先の杖」を念頭に、元気なうちに住まいを見直し、手直しをすることが一番確実です。老後に備えた住まいづくりのポイントは、「いかにして健やかに老いられるか」「心身機能が低下してもいかにして1日でも長く他人の世話にならずに自分でできるか」「他人が介助する場合もどうしたら楽にできるか」にあります。そのためには、まず年をとっても事故が起こらない安全な住まいづくりをする必要があり、安全に配慮した住まいは将来、身体が不自由になっても便利に快適に住み続けることができます。