日本建築学会
環境設計運営委員会
環境バリアフリー小委員会
Subcommittee of Environmental Barriers-free


日本では寒い時期、高齢者が入浴中に死亡するケースが多い。日本に多い理由のひとつは、日本特有の入浴文化にあるのかもしれない。しかし、寒い時期に高齢者に多い理由は、冬季の入浴環境の温度と高齢者の身体特性にある。

 図は、1993年1月から1997年3月まで、兵庫県監察医が死体検案・解剖を行った入浴中の死亡例と神戸市の月平均気温を重ねたものである。死因の多くは循環器系の疾患であった。

 冬季には暖かい居室と寒い脱衣室の温度差が激しく、ヒートショックによって血圧が急上昇する。浴室が寒ければ湯温は高温になりやすい。高温浴のために血液粘度が増すことにより、心筋梗塞や脳梗塞を起こしやすくなる。また、温熱効果によって血圧が低下すると虚血性心疾患になりやすい。加齢にともない循環機能が低下した高齢者にとっては厳しい環境となっている。こうした温度差を解消し、身体への負担を軽減することを、温度のバリアフリーという。

延原 理恵、西村 明儒、宮野 道雄、主田 英之、西 克治:神戸市における高齢者の入浴死に関する実態調査、日本建築学会近畿支部研究報告集、計画系(38)、pp.121―124、1998.5