日本建築学会
環境設計運営委員会
環境バリアフリー小委員会
Subcommittee of Environmental Barriers-free

(1) 病院
 冷暖房共に各不満で回答数が多いのは、頸髄損傷者(以下頸損者)の病院の利用頻度が高いためと考えられる。冷暖房共に「弱い」、「効きすぎ」、「同室者と好みの温度が合わない」が特に多いことから、温熱環境の調節が難しい施設である。入院病棟は、頸損者を含め入院患者は出来るだけ個室に入ることが望ましい。入院患者の適温は様々に異なると考えられるので、空調機の性能には十分な余裕が必要である。

(2) 職場
 冷暖房共に「同室者と好みの温度が合わない」が多い。作業空間には一般水準の空調が行われるとともに、個人用ホットカーペットや冷温風装置などの補助対策が追加可能であることが望ましい。

(3) 役所・役場
 冷暖房共に「弱い」が多い。最近は省エネ対策として、空調の温度設定では夏期の冷房温度は28℃以上、冬期の暖房温度は20℃以下が推奨されている。役所・役場はこれらの推奨値を順守しているところが多いと考えられるが、頸損者にとって冷房温度は高すぎ、暖房温度は低すぎることが窺える。

(4) コンビニ・スーパー、デパート、喫茶店・レストラン、娯楽施設
 冷暖房共に「効きすぎ」が多く、特に冷房は多くなっている。夏季、冬季共に客に印象づけるための過剰な空調が行われている可能性があるが、頸損者には危険であるので避けなければならない。

(5) 学校
 「冷暖房設備がない」が多い。自由記述で頸損の子供を持つ親から、学校にエアコンがなくて困っているとのコメントがあったことからも、頸損の通学者が安心して教育を受けられるよう、空調設備は必須である。

(6) 公衆トイレ
 「冷暖房設備がない」が多い。頸損者の排便時間は極めて長い傾向にあるため、積極的な対策が必要である。ビル内の車椅子トイレはビル本体と同様の温熱環境とすることが望ましい。屋外の車椅子トイレにはパネルヒーター、冷温風装置などを設置することが望ましく、すきま風を防止する建築的配慮が必要である。

(7) 駅
 冷暖房共に「弱い」が多い。駅舎は屋外とつながっているため、高い冷暖房効果が得られていないことが考えられる。また「冷暖房設備がない」も多く、自由記述で、ホームで電車を待つ間、日射や風に当たるのがつらいとのコメントが得られていることから、冷暖房設備のある待合所をホームに設置することが望ましい。

(8) 交通機関
 様々な乗物の中で、電車の「冷房が効きすぎ」が際だって多くなっていた。弱冷房車はあるものの、過剰な空調や気流で不快を感じている頸損者が多いと考えられる。

三上功生, 吉田燦, 青木和夫, 蜂巣浩生:頸髄損傷者の温熱環境に対する意識・実態調査, 日本生気象学会雑誌, Vol. 42, No. 2, pp. 97-107, 2005