日本建築学会
環境設計運営委員会
環境バリアフリー小委員会
Subcommittee of Environmental Barriers-free

 「視覚障がい者の日常生活における歩行中の事故について」の紹介にて、視覚障がい者が屋外における歩行中に頭部への衝突事故が多かったことを示したが、その対応策の一提案として、障害物知覚・方向認知のための反響体について、その可能性も含めた基礎的な研究を行っている。

 視覚障がい者が歩行する際、壁や障害物を認知する能力が極めて高いことは実験によっても明らかにされている。これは障害物知覚(Obstacle sense)と呼ばれ、聴覚のメカニズムによるものである。すなわち、自分の足音や白杖音の反射音を利用して障害物の存在を検知するソナー的な方法(エコー定位:human echolocation)である。過去の実験報告では、90cm先の直径16cmの円盤の存在を検知できたというものなどが報告されており、その能力の高さが示されている。一方、壁に沿って歩くことは可能であるが、ポール列に沿って歩くことは不可能という実験報告もあり、障害物知覚に限界があることも示されている。

 一般的な歩行環境で考えれば、小さな看板やトラックの荷台から突出したものなど、地面から離れた小さく細い障害物を確認することは困難であり、実際にも衝突事故の原因になっている。これら以外にも、衝突事故の原因となるものが街中に多く存在している。

 そこで、このような検知しづらいものに取り付け、白杖の音を反響させることにより障害物の存在や方向を認知しやすくするという反響体の開発を目的として研究に取り組んだ。反響体は、電気的な発音体ではなく、音の反響を増幅させる形状または機構を持ったパッシブなものとし、特徴的な反射音が生じ、色々な場所に簡単に取り付けられるような小型の反響体とした。視覚障害者の聴覚による検知能力は大変優れているため、ある程度の反射音の増幅が可能となれば、十分に危険個所存在の注意を喚起することができると考えられる。また、この反響体を一定間隔で設置すれば方向定位が容易となり、プラットホームからの転落防止や非常時の避難方向確認などへの用途も期待できる。この反響体の開発研究の初段階として、反響体の可能性および有用性について検討している。



図ー1 反響体のイメージ図

安部信行、橋本典久:視覚障害者の障害物知覚・方向認知のための反響体の開発、日本建築学会技術報告集第18号、pp143-147、2003年12月