日本建築学会
環境設計運営委員会
環境バリアフリー小委員会
Subcommittee of Environmental Barriers-free

高齢者の聴力は年齢とともに高音域から低下する。聴力というのはあくまで閾値を示すものであり、すべての音圧レベルにおいて一様に大きさ感が小さくなっているわけではない。音圧レベルが大きくなると再び聞こえやすくなるという現象(聴覚過敏症の難聴の場合)がみられる。このような音圧に対する非線形な応答を聴覚補充現象(Recruitment hearing)という。そのため一律に音を大きくしてしまうと、今度はうるささを感じることになる。(1)の領域では音が聞こえず、(2)の領域に入ると急激に音が大きく感じ始める。(3)の領域は健常者と同様に音の大きさを知覚できる領域である。
健常者は、「高齢者はどのような大きさの音も一律の度合いで聞こえにくくなっている」と誤解しがちである。実際は「小さな音が聞こえにくくなっている」のである。


図1 聴覚補充現象における音の大きさ感の変化

【参考文献】
日本建築学会編(土田義郎分担執筆):心理と環境デザイン 感覚・知覚の実践, 技報堂出版, 2015.