日本建築学会
環境設計運営委員会
環境バリアフリー小委員会
Subcommittee of Environmental Barriers-free

 視覚障がい者が日常生活において屋内外を歩行中に遭遇した事故について、2005年に全国の日本盲人会連合加盟団体を通して実施した点字によるアンケート調査を実施した。過去5年以内(調査時からさかのぼって)に経験した屋内外歩行時に遭遇した衝突、転倒、転落事故に関する内容である。(全国に290通を送付し、161名から回答が得られた・・・有効回答率55.1%)

<屋外歩行時の事故について>

 屋外歩行時に事故を経験しているのは表-1に示すように回答者全体の約4割であった。また、衝突事故の対象物を図-1に示すが、自動車が特に多い。歩道上に違法駐停車されている自動車、サイドミラーやトラックの後部に衝突し事故に至ったものが多数である。

 更に、自転車への衝突件数も多数を占めており、視覚障害者自身の不注意で発生したとは考えにくい事故が頻発している。電柱への衝突も目立っているが、図-2に示すように、特に頭部への衝突が多い。

 以上のような頻度の高い事故については対応が求められ、特に自動車や自転車に関しては、違法駐車、駐輪への徹底した取締りの強化、歩道上には駐車させない環境づくりや、電柱に関しては地中化の推進などが必要である。

 また、図-3に示すように、最も多い転落場所は工事現場である。最近の工事現場では、簡易的な点字ブロックを設置して迂回するように配慮してある場所もみられるが、どのような工事現場においても、危険な箇所には容易に入れないように工夫することや誘導員を配備するなどの安全な対応が望まれる。また、駅のホームからの転落事故も目立っている。



<屋外歩行時の事故について>

 自宅内における事故の比率は表-2に示すように17%(28名)であり、住み慣れている自宅でも事故発生率は少なくない。事故の発生場所は図-4に示すが、ドア付近や階段で頻発している。ドアに衝突した事故は、その殆どが半開きのドアに衝突して顔面を負傷している。階段における事故では、段数の勘違いや踏み外しなどによる転落や転倒が原因である。


 一方、自宅以外の建物内における事故に関しては、自宅内と同様にドアや階段付近での事故が目立っている。ドアに衝突する原因としては、半開きのドアに衝突するケースが多く、閉まっているドアに衝突するケースは少ない。また、柱や曲がり角に衝突する事故も多い。


 負傷部位では、頭部への負傷が目立っており、ドアや柱、曲がり角に頭部を衝突するケースが多い。事故の発生している建築物は、福祉施設や盲学校、病院、ホテル、旅館、レストラン、駅舎などがあげられている。

 以上から、今後の視覚障害者が利用する施設の設計上の留意点として、扉については基本的に引き戸とし、更には半開きにならないように自動的に閉まる機構とすることや、柱や曲がり角などは衝突してもケガをしないような造りにするなどの配慮が必要である。特に福祉施設においても33名中5名が事故に遭遇しているので、福祉施設など公共建築物での設計上の対応が望まれる。


 以上のように、統計上には表れにくい視覚障がい者の歩行事故について調査した結果、事故の経験率は回答者全体の4割を占めており、屋内外ともに事故の頻度も高いことが分かった。

 視覚障がい者の歩行環境整備は歩行支援と事故防止の両面から考えていかなければならないが、事故防止に対する配慮も十分に対応していくべきである。

安部信行、橋本典久:視覚障害者の歩行事故に関する基礎調査、日本建築学会技術報告集第23号、pp325-329、2006年6月