日本建築学会
環境設計運営委員会
環境バリアフリー小委員会
Subcommittee of Environmental Barriers-free

TOPIC〜環境バリアフリー〜 2018年11月

わかりやすい情報提供のガイドライン

有限会社プラネットワーク 代表取締役 二井 るり子

 知的に障がいのある方々にどのように情報提供をすればよいかをまとめたガイドラインがあります。このガイドラインを用いて、社会的に広く利用されることにより、情報提供に合理的な配慮がなされることが期待されます。

「知的障害により、文字を読んだり、読んだ内容を理解することに難しさをもつ人たちがいます
その人たちが
一般の人たちと同じようにさまざまな情報を得て、
自分たちの生活を豊かに生きられるように、
支援するためのガイドラインです。


発行:全国手をつなぐ育成会連合会本人活動支援委員会

TOPIC〜環境バリアフリー〜

視覚障がい者が安全に駅を利用するための情報に関する研究

滋賀県立大学 人間文化学部 生活デザイン学科 宮本雅子教授

 駅構内を安全に移動するための情報の事例についてインターネット、視覚障がい者へのヒアリング等によって調査を行った結果、大阪市、京都市などの都市部の地下鉄では、乗降位置案内が図で示されいることがわかった。乗車駅での乗車位置がわかれば、降車駅での降車位置がわかり、乗り換えに便利な階段や大きな荷物を持っている場合や車椅子等の場合ではエレベーターの位置を確認することができる。これらはいずれも電車の車両数が同じで車両の止まる位置が決まっているため単純な図で表現が可能である。しかし、JR線のように車両数が異なり駅によって停車位置が異なる場合には、十分な検討が必要になる。
 そこで、駅にどのような問題があるかについて、視覚障がい者同行の上、実態の把握を行い、特に、駅ホーム上での誘導鈴、点字ブロック、内方線の状況、改札内トイレの誘導の必要性について確認をした。内方線があったとしても内方線側に壁があったり、点字ブロックを分断する柱があったり、さまざまな問題がみられる。誘導鈴については、音の大きさや音の種類など駅によって違いがみられる。
 また、盲学校教員(視覚障がい者)へのヒアリングの結果、内方線の存在を知らない方がおられ、視覚障がい者に認知されていないということもわかった。
以上の、事前調査を踏まえ、JR琵琶湖線各駅(京都駅から長浜駅)の必要な情報についての検討を行い、琵琶湖線各駅の実態調査を行った。JRおでかけネットで得られる駅情報も利用した。

<調査内容>

●上り線ホーム、下り線ホーム両方のデータ
●ホーム上にある設備 (階段、エレベーター、エスカレーター、待合室、ベンチ等) の位置
●階段と停車した電車の位置関係
 視覚障がい者が単独で移動する場合、乗車時は階段に近い扉から乗車する。乗車位置(何両目の前から何番目の扉か)が決まっていれば、降車時に階段がどちらの方向でどのぐらいの距離にあるのかを知っておくことによって安全に移動ができる。各駅に必ず設置されている階段の位置と車両の位置関係が分かれば降車位置を特定できることから階段と車両の位置(何両目の前から何番目の扉か)関係の情報が必要である。
●先頭車両の止まる位置
 車両の数によって先頭車両の止まる位置が違う時、どの位置に止まるのか。
 車両数が違うと駅によっては先頭位置が異なるため、乗車時の位置は同じであっても降車時の位置が必ず同じ位置とは限らない。そのため、車両数と先頭位置の関係を知っておく必要がある。
●ホーム上の点字ブロックの内方線
 内方線があることによってどちら側が安全であるかわかる。
●ホーム階段の誘導鈴
 誘導鈴があることによって階段の方向を知ることができる。
●危険個所
 階段下などホームが狭くなっているところを把握する必要がある。

 これらの情報を視覚的にわかりやすくまとめる作業を行い、JR琵琶湖線駅情報冊子(checki)にまとめた。
 今後これをもとに音声データを作成する予定である。

TOPIC〜環境バリアフリー〜

視覚障害者はエスカレータに乗れるか?

金沢工業大学 建築学部 建築学科 土田義郎教授

現在のガイドライン1)では視覚障害者に対する誘導はエレベータか階段となっている。視覚障害者は危険性の高いプラットホームを長距離歩くことを強いられる場合がある。吉本は、香港のエスカレータのサイン音を参考に、①手すりの位置からの音の発生で手すりの場所を表示する、②音階の上昇・下降でエスカレータの乗降を示す、③リズムの速さで進入の可否を示すことを提案した2)。この提案を発展させ、サイン音の鳴動とエスカレータに乗るタイミングを同期させれば、視覚障害者の方もスムーズに乗ることができると考えた。

エスカレータの速さ70.6段/分から、サイン音のテンポは16分音符が280bpmに相当するように設定する。実験は、暗室内にエスカレータの動画をプロジェクターと鏡を使い床に投影し、エスカレータを模擬する(図1)。手すりの位置にスピーカを配置しサイン音を鳴らすことで、手すりの位置が判断できるようにし、被験者は音の位置を手がかりにまず手すりにつかまる。エスカレータのステップが出てくるタイミングとサイン音の鳴動開始時刻を同期させ、足を踏み出してステップに乗ることができるか被験者に実施し、検証する。足を踏み出した一歩目で、踏面につま先からみて足の2/3以上が乗った場合を成功(○)、2/3以下1/2以上が乗った場合をやや成功(△)、1/2以下に乗ったまたは乗れなかった場合を失敗(×)とする(図2)。



図1 実験方法 断面図



図2 ステップへの踏み出した足

実空間に近づけるため、券売機前の音(建築と環境のサウンドライブラリ)を背景音として60dB(A特性音圧レベル)で流した。サイン音は、65.5±1dBの音の大きさで流す。実験はアイマスクで目隠しをして、音を頼りに手すりに掴まり、サイン音に合わせて足を一歩踏み出してもらう。ランダムに8種類のサイン音を流しそれぞれ、実験を行う。それを3回繰り返し行う。被験者は20代の男女20名である。音程や拍子を変えた全ての試験音で75%以上の確率で乗れることが示された。ステップの奥行40cmに対して足のサイズを24cmと仮定すると、ランダムに足を踏み出して足が1/2(2/3)以上ステップに乗る確率は70(60)%になる。実験のシステムを用いることで、若干これを上回る結果となることが示された。また、慣れにより成功率は高くなると見込まれる。

【参考文献】
1)国土交通省総合政策局安心生活政策課、「交通機関の旅客施設に関する移動等円滑化整備ガイドライン」、pp.120-135、2013.
2)吉本浩二、「日本と香港の現状比較を踏まえた新しいエスカレータの音サイン提案」、日本福祉のまちづくり学会2015大会、セッションI3E8.2015.

ここでは、環境バリアフリーに関する情報を委員より随時ご紹介して参ります。

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